古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

2020-01-01から1年間の記事一覧

逃げる!

やっと会えたイザナミ、しかしそのおぞましい姿・・・私は思わず松明を落としてしまった。次の瞬間、踵を返すと一目散に逃げだしていた。 すると、背後からイザナミの声が聞こえた・・・確かにイザナミの声だが、優しかった昔のイザナミの声ではない・・・ …

イザナミに会えた!・・が・・

黄泉の国の宮殿の床に、イザナミは横たわっていた。 「ああ、イザナミ!」 わたしはイザナミに駆け寄る。しかし・・・ ・・・松明の光に照らされたイザナミの姿を見たとき・・・ 「うっ・・・!」 わたしは息をのんだ。 確かにそれはイザナミだった。しかし…

黄泉の宮殿に入る

イザナミは戸の奥に下がっていったようだった。再び黄泉の宮殿を不気味な静寂が包んだ。 私は待った。どれくらい待っただろうか・・ 暗い黄泉の世界では、時の流れが全く分からない。 一昼夜か、それとも二昼夜は立っただろうか・・なかなか出てこぬイザナミ…

遅かった・・

わたしはイザナミを迎えに黄泉の国まで来た。そして黄泉の国の宮殿で、扉越しにイザナミと話すことができた。 しかし、様子がおかしい・・・イザナミはなぜか、泣いているようだ・・・いったいどうしたというのだ・・ 「おい!イザナミ、どうした!お前、泣…

黄泉の国のイザナミ

わたしは死んだイザナミを連れ戻すために、死者の行く地である黄泉の国に来ていた。 黄泉の国でイザナミを探し歩くうち、石と土の宮殿を見つけた。辺りは静まり返り、それでいて重苦しく不気味な空気が漂っている。 私は確信した「この中に、イザナミがいる…

イザナミを迎えに行く

わたしは妻イザナミの死の原因となった、我が子火の神カグツチを斬った。 しかし、私の心は晴れなかった・・・晴れるわけもなかった。 残ったのは空虚な虚しさだけだった・・・ そしてわたしは決心した。 わたしはイザナミなしに生きていくことはできない・…

イザナミを葬り、カグツチを斬る

イザナミは死んだ・・・ 私は泣いた・・・どれぐらい泣いただろうか・・・ その涙からも神が生まれてきた。ナキサワメの神だ。しかし、その時はそこまで気が回らなかった・・目の前の、イザナミの死の悲しみで、心がいっぱいだったのだ。 わたしはイザナミの…

イザナミ、死す・・

わたしの目の前には、下半身に大やけどを負って瀕死で横たわるイザナミがいた。 「イザナミ!」 「・・・イザナギ・・・」 わたしは床に倒れているイザナミを抱き起す。 いったい、何が起こったというのだ・・・ その時、わたしはイザナミの傍らに、一人の神…

イザナミに何が・・・

日本の島々が産まれ、国を守る神々も生まれた。日本の国は魂が満ち溢れ、脈動する生き生きとした国になった。 妻イザナミは本当によく頑張った。妻にはどんなに感謝してもしきれない。わたしたちはこの日本で、子供の神々に囲まれ、幸せに過ごしていた。 そ…

神々を産む

こうして日本を形作る島々が生まれた。 わたしたちは生まれた島に降り立った。 そこは草も木もない、ごつごつとした岩場だらけの島だった。 島を産んだだけで満足してしまうわけにはいかない。ここに国を造り、発展させていかなければならない。 どうすれば…

日本の国が産まれる

わたしとイザナミは、オノゴロ島の宮殿に帰り、再び天の御柱の前に立った。 わたしはは先にやった時と同じように、太い柱をゆっくり左に回っていった。そして右に回っていたイザナミが柱の陰から現れる。 そしてわたしから口を開く 「イザナミ・・・なんてき…

太占の結果は・・・

その夜、造化三神の神殿。庭には桜を伐った薪が積み上げられていた。 薪の前にアメノミナカヌシさまがお立ちになり、その後ろにわたしとイザナミが並んで立つ。その周りを造化三神や、その他八百万の神々が取り囲んだ。 準備が整い、太占(ふとまに)が始ま…

高天原に帰る

わたしたちは悩んでいた。 立派な国を創ろうと勇んでオノゴロ島に降り立ったのに、なかなか子宝に恵まれないのだ。このままでは国を創ることができない。 そんな時、イザナミが言った 「あなた・・一度、高天原に戻って、神様がたに相談してみない?」 「そ…

生まれた子は・・

わたしとイザナミが愛を誓いあい、時がたった。妻イザナミは妊娠していた。 そして子が産まれた。わたしたち夫婦にとって初めての子だった。 しかし・・ 生まれた子を見てわたしたちは衝撃を受けた。生まれた子はヒルコ・・そう、手も足もない、まるでヒルの…

柱を回って愛を語る

「ええ、いいわ・・」 イザナミは、わたしを受け入れてくれた。 わたしはイザナミに続けて言った 「ならば、ぼくらで夫婦の契りをかわそうじゃないか」 「え?どうするの」 「宮殿の中央には、天まで届く天の御柱が建っている。この柱を二人で回って、愛のこ…

二人の体

わたしとイザナミは、オノゴロ島に建てた宮殿に入っていった。 わたしはイザナミのほうを振り返ってみた ・・・美しい・・きれいだ・・ これからイザナミとここに暮らすことになるのか・・ わたしは我を忘れていた。 「どうしたの、イザナギ」 イザナミの声…

宮殿を建てた

わたしとイザナミは、天浮橋を伝ってできたばかりのオノゴロ島に降り立った。 そこには何もない、草も木もない、岩さえもない、殺風景な島だった。 島に降りたはいいが、さあこれからどうすればよいのだろう・・・。隣を見ると、イザナミが不安そうな顔で私…

オノゴロ島ができた

一刻後 わたしとイザナミは、天の浮橋に立っていた。ここからなら、下界の様子がよく見える。 そこには海も陸もなかった。ただ一面、茶色のどろどろしたものが広がっているだけだった。 わたしは不安になってきた。 「こんな、何もないところに国を作ろうと…

天の沼矛を賜る

その日、わたしはイザナミと一緒に造化三神の前に進み出た。祭壇の中央にアメノミナカヌシ様、左右にタカミムスビさまとカミムスビ様が鎮座されている。この三柱が造化三神と言われる、世の中で一番最初に生まれてきた神だ。 張り詰めた空気が流れている。わ…

イザナギの自伝 プロローグ

わたしの名はイザナギ。令和の今の時代からさかのぼる、遠い遠い昔のある日、高天原に生まれた神である。 わたしには父も母もいない。 ・・いや、孤児という意味ではない。本当にいない、物理的に存在しないのだ。 ある日気が付けば父も母もなく、高天原に生…

古事記の話 完結

23代顕宗天皇は38歳の若さで崩御された。御子はいなかった。 皇位を継いだのは兄のオケだった。24代の仁賢天皇である。 仁賢天皇の崩御後は御子のオハツセが皇位を継いだ。25代の武烈天皇である。しかし武烈天皇にも後を継ぐ御子はいなかった。 ここに履中天…

墓を壊し帰る

天皇の兄オケは、少数の従者のみ連れて、父の仇である雄略天皇の御陵を壊しに行った。 そして帰ってきた。しかし、その帰りがあまりにも早かったので、天皇は怪しんだ。 オケは天皇に報告する 「雄略帝の墓を壊し帰ってまいりました」 「兄上、ずいぶん早か…

雄略天皇墓を壊しに行く

幼少時に自分たちの食糧を奪った、猪飼の老人を処刑した天皇。しかしそんな恨みは、父の仇に比べれば小さいものだった・・ そう、父オシハの命を奪い、自分たちが漂泊する原因を作った雄略天皇・・・父オシハの御魂に報いるためには彼を処罰しなければならな…

猪飼の老人

また天皇は、山城の国に捜索隊を送っていた。 天皇はかつて幼少時、山城の国の苅羽井で、逃走中に自分たちの食糧を奪った猪飼いの老人を探していたのである。 その老人はまだ存命だった。老人は捕らえられ、天皇の前に引き立てられた。 天皇は言う 「そなた…

置目老媼

父オシハが埋められていた場所を教えてくれた老婆。天皇はその功績を称え、老婆に「置目老媼」(おきめのおうな)の称号を与えた。 それだけでなく、天皇は老婆を宮中に召し出し、住まわせたのだ。 天皇はことあるごとに老婆を呼び出していた。宮中に造った…

父の骨を探せ

播磨の国から宮中に戻ってきたオケとヲケの兄弟。弟のヲケが第23代の皇位を継ぐことになった。後の顕宗天皇である。 天皇は父親のオシハをきちんと埋葬しようと思った。 オシハは政敵だったオオハツセ・後の雄略天皇により暗殺され、その遺体は切り刻まれて…

都に帰るオケとヲケ

シジムの屋敷の新築祝いでその正体を明かしたオケとヲケ。朝廷から派遣されていたオタテは慌てて駆け寄るあまり、土間に転げ落ちてしまった。 それを見たオケとヲケが駆け寄る。 「ああっ・・大丈夫ですか!?」 「いえ・・御子の苦労に比べたら、なんてこと…

舞う少年

シジムの家の新築祝いで舞を舞うように命じられた釜焚きの少年の兄弟。意を決した兄は前に進み出て構えた。その姿にまた、どっと笑い声が響く。 しかし・・・ 少年が舞い始めると、その笑い声は消え、会場は凍り付いた。 何だ・・・この滑らかな舞は・・・こ…

播磨の国、シジムの屋敷で

播磨の国に、朝廷からオタテという人物が地方長官として派遣されていた。 ある日、オタテはこの地の豪族シジムの家に招かれた。シジムが屋敷を建て直したので、その新築祝いに招かれてきたのである。 シジムの屋敷では、にぎやかに宴会が開かれていた。酒に…

アブと蜻蛉と天皇と

これも天皇が狩りに出たときのことである。 天皇は椅子に座って休憩していた。その時、アブが飛んできた。 天皇は腕を振ってアブを追い払おうとする。しかしさすがの暴君もアブ相手にはかなわない。 アブは天皇の腕を刺し、飛んでいった。 天皇は恨めしい顔…