古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

古事記下巻

古事記の話 完結

23代顕宗天皇は38歳の若さで崩御された。御子はいなかった。 皇位を継いだのは兄のオケだった。24代の仁賢天皇である。 仁賢天皇の崩御後は御子のオハツセが皇位を継いだ。25代の武烈天皇である。しかし武烈天皇にも後を継ぐ御子はいなかった。 ここに履中天…

墓を壊し帰る

天皇の兄オケは、少数の従者のみ連れて、父の仇である雄略天皇の御陵を壊しに行った。 そして帰ってきた。しかし、その帰りがあまりにも早かったので、天皇は怪しんだ。 オケは天皇に報告する 「雄略帝の墓を壊し帰ってまいりました」 「兄上、ずいぶん早か…

雄略天皇墓を壊しに行く

幼少時に自分たちの食糧を奪った、猪飼の老人を処刑した天皇。しかしそんな恨みは、父の仇に比べれば小さいものだった・・ そう、父オシハの命を奪い、自分たちが漂泊する原因を作った雄略天皇・・・父オシハの御魂に報いるためには彼を処罰しなければならな…

猪飼の老人

また天皇は、山城の国に捜索隊を送っていた。 天皇はかつて幼少時、山城の国の苅羽井で、逃走中に自分たちの食糧を奪った猪飼いの老人を探していたのである。 その老人はまだ存命だった。老人は捕らえられ、天皇の前に引き立てられた。 天皇は言う 「そなた…

置目老媼

父オシハが埋められていた場所を教えてくれた老婆。天皇はその功績を称え、老婆に「置目老媼」(おきめのおうな)の称号を与えた。 それだけでなく、天皇は老婆を宮中に召し出し、住まわせたのだ。 天皇はことあるごとに老婆を呼び出していた。宮中に造った…

父の骨を探せ

播磨の国から宮中に戻ってきたオケとヲケの兄弟。弟のヲケが第23代の皇位を継ぐことになった。後の顕宗天皇である。 天皇は父親のオシハをきちんと埋葬しようと思った。 オシハは政敵だったオオハツセ・後の雄略天皇により暗殺され、その遺体は切り刻まれて…

都に帰るオケとヲケ

シジムの屋敷の新築祝いでその正体を明かしたオケとヲケ。朝廷から派遣されていたオタテは慌てて駆け寄るあまり、土間に転げ落ちてしまった。 それを見たオケとヲケが駆け寄る。 「ああっ・・大丈夫ですか!?」 「いえ・・御子の苦労に比べたら、なんてこと…

舞う少年

シジムの家の新築祝いで舞を舞うように命じられた釜焚きの少年の兄弟。意を決した兄は前に進み出て構えた。その姿にまた、どっと笑い声が響く。 しかし・・・ 少年が舞い始めると、その笑い声は消え、会場は凍り付いた。 何だ・・・この滑らかな舞は・・・こ…

播磨の国、シジムの屋敷で

播磨の国に、朝廷からオタテという人物が地方長官として派遣されていた。 ある日、オタテはこの地の豪族シジムの家に招かれた。シジムが屋敷を建て直したので、その新築祝いに招かれてきたのである。 シジムの屋敷では、にぎやかに宴会が開かれていた。酒に…

私がオバアさんになっても

巡行に出た先で美しい少女に出会い「宮中に召し出すから嫁には行かずに待っていてくれ」と言ったまま忘れていた天皇。それから数十年の時が経ち、今は老婆となったその時の少女アカイコが天皇に謁見していた。 「あ・・アカイコか・・あの時の・・」 「ああ…

天皇を訪ねてきた老婆

ある日、天皇のもとに、一人の老婆が訪ねてきた。老婆はたくさんの進物を持参し、天皇に献上してきた。 老婆の謁見を受けた天皇。その名もない老婆に不信を抱く。 天皇は老婆に対して 「数多くの献上、感謝する。しかし、そなたはまた、何のために来たのだ?…

神様への献上品

葛城山に巡行に出た天皇、その途中行幸の列と全く同じ姿形の人たちと出くわした。そして天皇が名を問えば同じ言葉を返し、弓矢を構えれば同じことをする。 天皇は弓矢を構えたまま叫ぶ 「名を名乗れ!さもなくばこちらから矢を放つ!」 すると、今までオウム…

マネするな!

天皇はその後、再び葛城山に巡行に出ていた。 この時、天皇は供としてについていく多くの官人たちに、青染めの服と赤い帯を下賜した。そして当日はこれを着ていくように命じた。 天皇が下賜した、そろいの服を官人たちが来ているさまを人民(おおみたから)…

天皇も怖がりゃ木に登る

天皇が葛城山に狩りに出かけたときのことである。 そこで天皇の前に現れたのは、巨大なイノシシであった。 「よし、あのイノシシはわたしが仕留める。お前らは手を出すな!」 天皇は供についてきた近習のものにそういうと、弓を構え矢をつがえた。 狙いを定…

杯に落ち葉が・・

またある時、新嘗祭の饗宴が開かれていた。その日の饗宴はたわわに茂ったケヤキの木の下で行われていた。 そこ三重から来た采女(うねめ、食事などの世話を行う女官)が天皇の前に進み出て、酒が入った杯を両手に捧げ、頭を下げた。ところが・・ 杯には茂っ…

日を背にして

志幾の大県主の家を離れた天皇は、当初の目的通りワカクサカのもとに向かっていた。 ワカクサカの兄、オオクサカの屋敷にに着いた。この屋敷にワカクサカもいる。 天皇は大県主から献上された白犬を側近を通して 「きょうここに来る道すがら手に入れた、大変…

白犬

大県主の屋根の上に鰹木がのっていることを見とがめ、家を燃やすように命じた天皇。兵士たちは大県主の家に押し入り、稲わらを積み上げ今まさに火をつけようとしていた。 このただならぬ様子に家の主人、大県主が飛び出してきた。事情を知った大県主は、遅れ…

鰹木を並べた家

自分の兄を殺し、履中天皇の御子オシハを暗殺し、その幼い御子オケとヲケも軍を送って追放したオオハツセ。皇位継承権を持つものを次々と消していった彼は、大和の朝倉宮で天皇に即位した。第21代雄略天皇である。 ある日、天皇は河内の日下(くさか)に行幸…

逃げた御子たち

オシハは次の皇位を狙うオオハツセに殺された。 オシハには二人の男の子がいた。兄の名はオケ、弟の名はヲケと言った。 オオハツセにとってはこの二人も邪魔だった。自分は父親を殺された仇でもあるし、将来の政敵となる可能性も高い。邪魔な芽は早いうちに…

オシハ、殺される

オオハツセとオシハは連れ立って淡海の久多綿の蚊屋野に狩猟に来ていた。その野に着いた夜、二人は別々に仮宮を作って宿泊した。 さて翌朝、まだ暗い時分、オシハは馬に乗って出立した。そしてオオハツセの泊まる仮宮に着くと、大声で 「オオハツセ様~まだ…

オシハを誘い出す

オオハツセはマヨワをかくまったツブラの屋敷を取り囲み、二人を自害に追い込んだ。こうしてマヨワの変は終わりを遂げた。 オオハツセはマヨワの鎮圧に自ら先頭に立って軍を指揮し、名声を上げた。次の天皇はオオハツセだという声が日増しに強くなっていった…

マヨワとツブラ、自決する

「オオハツセ様、先にお約束いたしました私の娘カラヒメは、オオハツセ様のもとにお仕えいたします。また娘には、私が持つ五か所の田地もすべて副えて献上いたします」 ツブラはオオハツセに向かって静かに言った。 オオハツセは答える 「そうか、わかった。…

攻めるオオハツセ

「なに・・・マヨワはツブラの屋敷に居るだと・・」 兄クロヒコとシロヒコを殺し、宮に戻ったオオハツセ。捜索隊から報告を受けたオオハツセは、顔を曇らせて言った。 実はツブラの娘、カラヒメをオオハツセの嫁として迎え入れることが決まっていたのだ。 し…

殺される兄

さて、天皇がマヨワにより殺された翌朝。当然のことながら、宮中は大騒ぎとなった。 急を聞いて天皇の同母弟、オオハツセが駆けつけてきた。この非常事態にオオハツセは 「今後の指揮はわたしがとる!」 と宣言すると、直ちにマヨワの捜索を命じた。 既にマ…

その時、マヨワは・・

オオクサカを殺し、その妻ナガタを自分の皇后にしてしまった天皇。 オオクサカとナガタの間には、幼い男の子がいた。名をマヨワと言った。マヨワは皇后となったナガタが引き取って育てていた。 それから数年、マヨワは7歳になっていた。遊びたい盛りのやんち…

讒言で殺されるオオクサカ

皇太子のキナシは伊予の国に流され、自害した。 キナシに変わって皇位を継いだのは、キナシを捕らえて処罰した、同母弟のアナホであった。第20代の安康天皇である。 さて、アナホは同母弟のオオハツセのために、彼の嫁として、オオクサカの娘ワカクサカを召…

兄妹愛の結末

カルは伊予の湯に流刑となった。 そこは当時から温泉地として知られてはいたものの、都から遠く離れた寂しい地であった。 そこでカルは虚しい日々を送っていた。 ソトオリは流刑こそ免れたものの、大和のとある豪族の家に軟禁されていた。 カルはその日も伊…

流罪となるカル

カルは弟のアナホに捕らえらえれた。 皇太子にかかわらず、同母の妹と情を通じた挙句、朝廷を飛び出し挙兵の準備をしていたのである。その罪は軽くはない。 カルの皇太子の地位は剥奪された。カルは伊予の湯に流刑が決まった。 カルを乗せた船は、闇夜に紛れ…

カル、捕わる

カルはオオマエコマエの屋敷に逃げ込み、武具を用意し兵を集めた。 朝廷に残ったアナホは、先制すべく軍を招集し、カルが立てこもるオオマエコマエの屋敷に進軍して行った。 空が崩れ、大雨が降り出す。まるで凍てつくように冷たい雨だった。 アナホが率いる…

兄妹の恋

19代允恭天皇が崩御された。次の皇太子には允恭天皇の御子のカルが指名されていた。 しかしそのカルは、同母の妹ソトオリと情を通じ合っていた。 ソトオリ(衣通王)はその美しさが衣を通り抜けて光って見えるようだというので、その名で呼ばれていた しかし…