古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

2021-12-01から1ヶ月間の記事一覧

4人の男児

山幸彦の自伝 28 わが后、トヨタマヒメが海に帰り、はや十数年。 トヨタマヒメは、わたしたちの子ウガヤフキアエズの養育のために妹のタマヨリヒメを送っていた。ウガヤフキアエズはタマヨリヒメの献身的な養育により、今では立派な青年に成長していた。 わ…

ああ、トヨタマヒメ・・・

山幸彦の自伝 27 トヨタマヒメが海に帰り、早数年の時が立った。 トヨタマヒメが残していった子は、ウガヤフキアエズと名付けた。ウガヤフキアエズはすくすくと育っていった。それというのも・・・ トヨタマヒメが自分の妹、タマヨリヒメを、子の養育のため…

別れ

山幸彦の自伝 26 トヨタマヒメが赤子を抱いて立っていた。 「トヨタマ、生まれたのか」 トヨタマヒメの正体を見てしまったわたしは、努めて平静を装っていった。 「ホオリさま・・・天の御子、あなたの子です・・・」 トヨタマヒメはそっと赤子を差し出した…

赤子を抱いて・・

山幸彦の自伝 25 産屋の中にいたのは・・・ワニだった! ワニがのたうち回って、子を産んでいたのだ! わたしはびっくりし、そして思わず一歩退き・・・ その時、足元の小石に足が当たり、カタッと小さな音を立ててしまった・・ ・・・しまった!・・・いや…

産屋の中にいたのは・・・

山幸彦の自伝 24 トヨタマヒメは出産のために産屋にこもった。その時、中を覗くなといった・・・どういうことなのだろう・・・気になる・・・ ・・・元の姿、ってなんだ・・・海神の宮殿で3年間を過ごした、あのきれいな姫の姿は仮の姿だったっていうのか・…

見るな

山幸彦の自伝 23 トヨタマヒメの出産に備えて、海のそばに産屋を建てることにした。 さっそくトヨタマヒメが上陸していた海岸に柱を立てていく。トヨタマヒメの出産も近い。 屋根と壁を葺いていくにあたって、陸上から萱を取ってくるより、手っ取り早く海岸…

トヨタマヒメが訪ねてきた

山幸彦の自伝 22 兄ホデリが去っていったあと、わたしは高千穂宮に戻っていた。 高千穂宮に戻ってしばらくしてからのことだった。わたしが執務を取っていると、従者が入ってきた。 「ホオリさま、若い女性の方が面会を求めておられます」 「ん?若い女性・・…

ホデリは降伏した

山幸彦の自伝 21 わたしが頭上に塩満珠を掲げると、海から大きな波が押し寄せ、兄ホデリの軍勢を押し流していく。 わたしの従者らは、屋根の上からあっけにとられてこの光景を見ていた。ホデリの兵士たちは次々と波にのまれていく。 「うわああっ」 「助けて…

津波!!

山幸彦の自伝 20 兄ホデリがわたしの宮に攻撃を仕掛けてきた。わたしと従者は屋根の上に上がり、わたしを中心に従者が周りを取り囲み、戸板で作った急ごしらえの盾で護る。 そうこうしているうちにも、ホデリの軍勢は私の宮の目の前まで進軍していた。先頭に…

屋根に上がれ!

山幸彦の自伝 19 兄ホデリがわたしの宮に攻撃を仕掛けてきた。 「ホオリさま!兄君の軍が攻めてきています!!」 宮の周りを警護していた従者から、その第一報はもたらされた。従者たちの間で動揺が走る。 ホデリは没落したといっても、高千穂宮の大軍を手中…

田を開けば・・・

山幸彦の自伝 18 わたしは高千穂宮を出て、海神の宮殿から帰ってきたときに上陸した海岸に新たに宮を建て、そこに拠点を移すことにした。 その頃の施政者にとって、新田開発は重要な課題だった。田が広がり米が多く取れれば、それだけ国力も強くなり支配力も…

釣れない魚

山幸彦の自伝 17 釣りに出掛けた兄ホデリが帰ってきた。しかし、その顔は明らかに不機嫌だ。魚が釣れなかったのだろうか。 「兄上、どうしたのですか」 「どうしたもこうしたも、一匹の魚も釣れやしない。おかしい、こんなこと、初めてだ・・・お前、針を返…

針を返す

山幸彦の自伝 16 3年ぶりに日向に帰ったわたしは、高千穂宮に戻っていった。 「兄上、ただいま帰りました」 「ん、ホオリか?お前、この3年の間、どこに行ってたんだ?お前がいない間、わたしは一人で政務を見ていたんだぞ! ・・・それで・・肝心の針は、…

日本に帰る

山幸彦の自伝 15 わたしは海神の宮殿から地上の日本に戻ることになった。 海神は今度はワニを集めると 「天の御子が地上にお戻りになることになった。お前ら、地上まで何日でお送りすることができるか」 と問うた。 すると、集まったワニの中で一尋ワニ(ひ…

海神が言った・・・

山幸彦の自伝 14 海神は赤鯛の喉から小さなものを取り出し、それをきれいな水で洗い清めてからわたしに見せた。 針だ!・・・確かに、あの時なくした釣り針だ!! 「ホオリさまがなくしたのは、この針ですか?」 「は、はい、そうです!確かにこの針です!!…

針があった!

山幸彦の自伝 13 海神ワタツミの宮殿に来て3年、わたしは海神にここに来たいきさつを聞かれて話した。 わたしの話を聞き終わった海神は 「さようでございましたか。天の御子ともあろうものが、なんでこんな海の底までおいでになったのか、不思議に思ってはお…

3年の果てに

山幸彦の自伝 12 わたしが海神ワダツミの宮殿に来てから、早3年の月日がたった・・ わたしは3年の間、海神の宮殿で妻のトヨタマヒメと一緒に、何一つ不自由なく楽しく暮らしていた。 そんなある日、ふっと思い出したのだ。 私は何でここに来たのか・・・そう…

トヨタマヒメを后に

山幸彦の自伝 11 侍女は器を持って宮殿の中に入っていった。 わたしは井戸のそばに立って待っていた。 ほどなく、きれいな若い女性が出てきた・・・この宮殿の姫様だろうか・・・ その娘と目が合った・・・ 娘が言った 「侍女が勾玉が張り付いた器を持ってき…

侍女が出てきて

山幸彦の自伝 10 わたしは籠舟に乗って、海の底と思われるところにたどり着いた。そこにはシオツチが言った通り、魚のうろこのように立ち並ぶ宮殿があった。門の横には井戸があり、井戸の側には大きな桂の木が茂っていた。 わたしはシオツチの言う通り、桂の…

海の底へ

山幸彦の自伝 9 わたしはシオツチが編んでくれた籠の船に乗って、大海原に流れ出していった。 どれくらい沖に出たのだろうか・・・あたりは水ばかりである。 シオツチを信頼することにはしたが、果たしてこんなんで兄ホデリの針を見つけて帰ることができるの…

ホオリの籠舟

山幸彦の自伝 8 シオツチは私の話を聞くと「良い知恵をお授けいたしましょう」というと、海岸わきの竹やぶに入っていった。 ・・・一体、何をしてくれるのだろう・・・ 不安な気持ちで待っていると、シオツチは竹を何本か切って戻ってきた。シオツチは竹を器…

シオツチに出会う

山幸彦の自伝 7 わたしは兄ホデリの針をなくし、海岸で途方に暮れていた。こんな広い海原の、どこを探せば小さな針を見つけて持って帰れるというのだ・・・ ・・・どれだけ時間がたっただろうか・・・すでに日が暮れようとしていた。 「もし・・・失礼ですが…

針を探せ!

山幸彦の自伝 6 わたしは兄ホデリの釣り針をなくしてしまった。そして、ホデリの怒りようは尋常ではなかった・・・ 「な、なに!お前、あの針をなくしただと!!あれほど言っておいたではないか!!それを・・・それを・・・何てことしてくれたんだ!!!」 …