播磨の国に、朝廷からオタテという人物が地方長官として派遣されていた。
ある日、オタテはこの地の豪族シジムの家に招かれた。シジムが屋敷を建て直したので、その新築祝いに招かれてきたのである。
シジムの屋敷では、にぎやかに宴会が開かれていた。酒に酔った豪族たちは、いい気持ちで舞をまう。身分の高いものから順番に舞い、その度に割れるような拍手が響く。
そして宴会場のものがみな舞終わった時だった。そこにいた一人が、部屋の隅の土間を指さして言った。
「おい!お前らも舞え!」
指さされた土間・・そこにはかまどが据えてあり、宴会で供する料理が煮炊きされていた。そこでは二人の少年が火の番をしていた。
「いえ、ぼくたち、そんな・・」
少年は断る。
それはそうだ。屋敷で下働きとして仕える身分の少年である。上流階級の舞など全く知らないだろう。
しかし酒に酔った皆は、少年二人に「やれ!やれ!」と口々にはやし立てる。もちろん彼らが舞など知らないのを承知の上である。さんざんはやし立て、恥をかかせて笑いものにするつもりである。
仕方なく、少年の一人は
「では兄さん、先にどうぞ」
と言い、言われた少年は
「いや、弟のほうから舞いなさい」
という。
どうやら少年二人は兄弟らしい。
こうして順番を譲り合う様を見て、会場からはどっと笑い声が起こった。身分の順に舞った俺たちの真似をして譲り合うふりをして、どうせできないものを押し付けあってるぜ・・・と。
ついに兄と思しき少年は
「仕方がない、ではぼくから・・」
と、立ち上がった。
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