古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

遅かった・・

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わたしはイザナミを迎えに黄泉の国まで来た。そして黄泉の国の宮殿で、扉越しにイザナミと話すことができた。

しかし、様子がおかしい・・・イザナミはなぜか、泣いているようだ・・・いったいどうしたというのだ・・

 

「おい!イザナミ、どうした!お前、泣いてるのか?日本に帰るのが嫌なのか?!」

 

「いえ、そうではありません・・・しかし・・ああ、イザナギ!遅かったのです!」

「なに?!」

イザナギ・・・わたしはここ、黄泉の国て炊いた食物を食べてしまいました・・わたしは既に、死者の国の神なのです・・」

「なんだと・・・」

 

私は青ざめた・・そう、イザナミの言う通りだ。黄泉の火で炊いた食事を食べる・・それは既に完全に死者となったことを意味するのだ・・

 

わたしは震えが止まらなかった・・・ああ、遅かったか・・・

しかし同時に怒りとも、勇気ともいえない感情が湧いてきた・・ここまで来てみすみすイザナミをあきらめられるかという・・・

 

わたしは戸の向こうに向かって叫んだ

イザナミ!それがどうしたというのだ!何を食おうがお前は日本の神だ!力づくでもこんなくらい世界からは引きずり出してやる!」

 

わたしは本当に、イザナミが戸を開けなければ、戸を蹴破ってでも中に入ってイザナミを連れ出す覚悟だった。

これを聞いたイザナミは涙声で言った

 

「ああ、イザナギ!それほどにまで私を・・・わかりました。では今からでも現世に帰れないか、黄泉の王と相談して来ます。その間、私の姿を決して見ないでください」

 

これを聞いた私は少し安心した。

「ああ、わかった、約束する」

 

イザナミは戸の奥に行ったようだった。再び私の周りを不気味な静寂が包んだ。

 

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イザナギの自伝 目次

 

 

☆黄泉戸喫

 

よもつへぐい、と読みます。死者の国の火で炊いた食べ物を食べることを言います。

古代、埋葬の際、食べ物を一緒に埋葬しました。これを食べることにより現世に蘇ることは無くなるとされ、死者を鎮めるための呪術だったと考えられます。

 

古事記では迎えに来たイザナギの呼びかけに対しイザナミは「悔哉、不速来、吾者為黄泉戸喫」(残念です、あなたが早く来てくださらないので、わたしは黄泉戸喫をしてしまいました)と答えています。

 

余談ですが「よもつへぐい」をワープロ変換すると「世持つ屁食い」になってしまった・・

 

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