わたしの目の前には、下半身に大やけどを負って瀕死で横たわるイザナミがいた。
「イザナミ!」
「・・・イザナギ・・・」
わたしは床に倒れているイザナミを抱き起す。
いったい、何が起こったというのだ・・・
その時、わたしはイザナミの傍らに、一人の神が立っているのに気が付いた。火の神、カグツチだ・・
私はその時、すべてを理解した。イザナミは火の神カグツチを産んだために、下半身に大やけどを負ってしまったのだ・・
わたしにはなすすべはなかった。
嘔吐し、糞尿は垂れ流しで、その姿はとても正視できなかった。
令和の今と違い、満足な治療ができるわけもない。
わたしは必死に看病したが、とはいっても汚物にまみれたその体をふいてやることぐらいしかできない。こんなにも無力感を感じたのは、後にも先にもこの時だけだった・・
不思議なことに、その吐瀉物、糞尿からも次々と神が生まれてきた。鉱山の神、陶芸の神、水の神・・
しかしそんなことは、もはやわたしにはどうでもいいことだった。私の眼にはイザナミの姿しか見えてなかった。イザナミはついに昏睡に陥ってしまった・・
そして、その時・・
「・・イザナギ・・」
一瞬、イザナミの目が開き、口が動いた。
「イザナミ!しっかりしろ!」
わたしは必死でイザナミに呼びかけた。しかし、イザナミは再び目を閉じ、唇だけかすかに動かした。
「イザナギ、ありがとう・・・」
そう言っているようだった・・そして、それが最期だった・・
しかしすでにイザナミは息をしていなかった・・・
「イザナミーー!」
愛するイザナミの死・・・
死・・・そう、これが日本で初めての「死」だった・・・
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