その夜、造化三神の神殿。庭には桜を伐った薪が積み上げられていた。
薪の前にアメノミナカヌシさまがお立ちになり、その後ろにわたしとイザナミが並んで立つ。その周りを造化三神や、その他八百万の神々が取り囲んだ。
準備が整い、太占(ふとまに)が始まる。
神の一人が火口に火をつける。火は桜の薪に燃え移り、だんだん大きく燃え上がる。
その間、アメノミナカヌシ様は火の前で祝詞を唱えている。
闇の中、火は大きく燃え上がる。
アメノミナカヌシ様は祝詞を唱えるのをやめると、うやうやしく鹿の肩甲骨を取り出し、そっと火の中に入れた。
そして再び祝詞を唱えだす。
その時、
ぴしっ!
甲高い音が響いた。
アメノミナカヌシさまが入れた鹿の骨が、勢いよく燃える火にあぶられてひびが入ったのだ。
アメノミナカヌシさまは祝詞を唱えるのをやめてじっとそのひびを見ている。ひびの形を読み取っておられるのだろう。
おもむろにアメノミナカヌシさまはわたしたちの方を振り向かれ、仰せになった。
「イザナギ、イザナミ。そなたたちが結婚した時のことを思い出してごらん。女神の方から先に声をかけなかったかい?」
そう、おのごろ島の宮殿で柱を回って愛を誓い合ったとき、確かにイザナミのほうが先に声をかけていたのだ。
その時、何か心に引っ掛かるものはあったのだが・・
「それがよくなかったんだよ。帰ってもう一度、結婚式をやり直すんだ。男神の方から声をかけるように気をつけなさい」
こうして私とイザナミは、再び天の浮橋を伝ってオノゴロジマに降りていった。
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☆太占
太占(フトマニ)は古代日本で行われていた占いで、鹿の肩甲骨を桜の木で焼き、ひびが入った形を見て占うものです。
支那の国では亀の甲羅を焼いて占ったそうです。この占いのため亀の甲羅に刻んだ文字が漢字の原形と言われる甲骨文字です。
古代の日本の風俗を記載した支那の歴史書「魏志倭人伝」には「倭人は何かあれば骨を焼いて吉凶を占う。その様子は冷亀法に似ている」と記述があります。
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