古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

天皇を訪ねてきた老婆

ある日、天皇のもとに、一人の老婆が訪ねてきた。老婆はたくさんの進物を持参し、天皇に献上してきた。 老婆の謁見を受けた天皇。その名もない老婆に不信を抱く。 天皇は老婆に対して 「数多くの献上、感謝する。しかし、そなたはまた、何のために来たのだ?…

神様への献上品

葛城山に巡行に出た天皇、その途中行幸の列と全く同じ姿形の人たちと出くわした。そして天皇が名を問えば同じ言葉を返し、弓矢を構えれば同じことをする。 天皇は弓矢を構えたまま叫ぶ 「名を名乗れ!さもなくばこちらから矢を放つ!」 すると、今までオウム…

マネするな!

天皇はその後、再び葛城山に巡行に出ていた。 この時、天皇は供としてについていく多くの官人たちに、青染めの服と赤い帯を下賜した。そして当日はこれを着ていくように命じた。 天皇が下賜した、そろいの服を官人たちが来ているさまを人民(おおみたから)…

天皇も怖がりゃ木に登る

天皇が葛城山に狩りに出かけたときのことである。 そこで天皇の前に現れたのは、巨大なイノシシであった。 「よし、あのイノシシはわたしが仕留める。お前らは手を出すな!」 天皇は供についてきた近習のものにそういうと、弓を構え矢をつがえた。 狙いを定…

杯に落ち葉が・・

またある時、新嘗祭の饗宴が開かれていた。その日の饗宴はたわわに茂ったケヤキの木の下で行われていた。 そこ三重から来た采女(うねめ、食事などの世話を行う女官)が天皇の前に進み出て、酒が入った杯を両手に捧げ、頭を下げた。ところが・・ 杯には茂っ…

日を背にして

志幾の大県主の家を離れた天皇は、当初の目的通りワカクサカのもとに向かっていた。 ワカクサカの兄、オオクサカの屋敷にに着いた。この屋敷にワカクサカもいる。 天皇は大県主から献上された白犬を側近を通して 「きょうここに来る道すがら手に入れた、大変…

白犬

大県主の屋根の上に鰹木がのっていることを見とがめ、家を燃やすように命じた天皇。兵士たちは大県主の家に押し入り、稲わらを積み上げ今まさに火をつけようとしていた。 このただならぬ様子に家の主人、大県主が飛び出してきた。事情を知った大県主は、遅れ…

鰹木を並べた家

自分の兄を殺し、履中天皇の御子オシハを暗殺し、その幼い御子オケとヲケも軍を送って追放したオオハツセ。皇位継承権を持つものを次々と消していった彼は、大和の朝倉宮で天皇に即位した。第21代雄略天皇である。 ある日、天皇は河内の日下(くさか)に行幸…

逃げた御子たち

オシハは次の皇位を狙うオオハツセに殺された。 オシハには二人の男の子がいた。兄の名はオケ、弟の名はヲケと言った。 オオハツセにとってはこの二人も邪魔だった。自分は父親を殺された仇でもあるし、将来の政敵となる可能性も高い。邪魔な芽は早いうちに…

オシハ、殺される

オオハツセとオシハは連れ立って淡海の久多綿の蚊屋野に狩猟に来ていた。その野に着いた夜、二人は別々に仮宮を作って宿泊した。 さて翌朝、まだ暗い時分、オシハは馬に乗って出立した。そしてオオハツセの泊まる仮宮に着くと、大声で 「オオハツセ様~まだ…

オシハを誘い出す

オオハツセはマヨワをかくまったツブラの屋敷を取り囲み、二人を自害に追い込んだ。こうしてマヨワの変は終わりを遂げた。 オオハツセはマヨワの鎮圧に自ら先頭に立って軍を指揮し、名声を上げた。次の天皇はオオハツセだという声が日増しに強くなっていった…

マヨワとツブラ、自決する

「オオハツセ様、先にお約束いたしました私の娘カラヒメは、オオハツセ様のもとにお仕えいたします。また娘には、私が持つ五か所の田地もすべて副えて献上いたします」 ツブラはオオハツセに向かって静かに言った。 オオハツセは答える 「そうか、わかった。…

攻めるオオハツセ

「なに・・・マヨワはツブラの屋敷に居るだと・・」 兄クロヒコとシロヒコを殺し、宮に戻ったオオハツセ。捜索隊から報告を受けたオオハツセは、顔を曇らせて言った。 実はツブラの娘、カラヒメをオオハツセの嫁として迎え入れることが決まっていたのだ。 し…

殺される兄

さて、天皇がマヨワにより殺された翌朝。当然のことながら、宮中は大騒ぎとなった。 急を聞いて天皇の同母弟、オオハツセが駆けつけてきた。この非常事態にオオハツセは 「今後の指揮はわたしがとる!」 と宣言すると、直ちにマヨワの捜索を命じた。 既にマ…

その時、マヨワは・・

オオクサカを殺し、その妻ナガタを自分の皇后にしてしまった天皇。 オオクサカとナガタの間には、幼い男の子がいた。名をマヨワと言った。マヨワは皇后となったナガタが引き取って育てていた。 それから数年、マヨワは7歳になっていた。遊びたい盛りのやんち…

讒言で殺されるオオクサカ

皇太子のキナシは伊予の国に流され、自害した。 キナシに変わって皇位を継いだのは、キナシを捕らえて処罰した、同母弟のアナホであった。第20代の安康天皇である。 さて、アナホは同母弟のオオハツセのために、彼の嫁として、オオクサカの娘ワカクサカを召…

兄妹愛の結末

カルは伊予の湯に流刑となった。 そこは当時から温泉地として知られてはいたものの、都から遠く離れた寂しい地であった。 そこでカルは虚しい日々を送っていた。 ソトオリは流刑こそ免れたものの、大和のとある豪族の家に軟禁されていた。 カルはその日も伊…

流罪となるカル

カルは弟のアナホに捕らえらえれた。 皇太子にかかわらず、同母の妹と情を通じた挙句、朝廷を飛び出し挙兵の準備をしていたのである。その罪は軽くはない。 カルの皇太子の地位は剥奪された。カルは伊予の湯に流刑が決まった。 カルを乗せた船は、闇夜に紛れ…

カル、捕わる

カルはオオマエコマエの屋敷に逃げ込み、武具を用意し兵を集めた。 朝廷に残ったアナホは、先制すべく軍を招集し、カルが立てこもるオオマエコマエの屋敷に進軍して行った。 空が崩れ、大雨が降り出す。まるで凍てつくように冷たい雨だった。 アナホが率いる…

兄妹の恋

19代允恭天皇が崩御された。次の皇太子には允恭天皇の御子のカルが指名されていた。 しかしそのカルは、同母の妹ソトオリと情を通じ合っていた。 ソトオリ(衣通王)はその美しさが衣を通り抜けて光って見えるようだというので、その名で呼ばれていた しかし…

允恭天皇

第18代反正天皇が崩御された後、反正天皇の同母弟のオアサマツマが次代の天皇に推挙された。 オアサマツマは「自分は病気がちで身体が弱い。とても皇位を受け継ぐことはできない」と辞退した。 しかし皇后や重臣たちの強い願いによって皇位を継ぐことにした…

ミズハワケ、天皇に会える

反逆者スミノエを策略を用いて誅殺し、実際にその手を下したソバカリを自ら斬ったミズハワケ。天皇がいる大和に上ってきた。 大和に入ってミズハワケは 「今日はここにとどまって禊をしよう。そして明日、陛下が滞在されている石上神宮に参詣しよう」 と言っ…

ミズハワケの信義

ミズハワケはソバカリを率いて大和へ戻っていた。 その道々、ミズハワケは考えていた。 ソバカリは私にとっては大きな功績があった。 しかし自分の主君を殺した。これは義に反することである。こんな奴を臣下にすると、将来自分に何されるかわからない。 一…

スミノエ殺害を命じる

石上神宮に逃げてきた天皇に会いに行くも、反逆者のスミノエのように謀反の心を持っているのでないかと疑われたミズハワケ。謀反の心なければスミノエを誅殺しろ、と天皇にいわれ、難波に戻ってきた。 さて、スミノエを誅殺しろといっても、単身どうするか。…

天皇に会えないミズハワケ

弟のスミノエの謀反で難波の宮を焼かれ、臣下のアチに助けられて大和の石上神宮(いそのかみじんぐう)まで逃げてきた天皇。 石上神宮に滞在している天皇のもとに、ミズハワケが訪ねてきた。天皇の同母弟である。 ミズハワケは身長九尺二寸半(約185cm)の堂…

当岐麻道を行く

スミノエの謀反で難波宮に火を放たれ、危うく殺されるところだった天皇。臣下のアチの機転により助けられ、大和を目指して逃避行を行っていた。 天皇とアチの二人は、波邇布坂(はにうざか)まで来た。後ろを振り返ると、難波宮は猛火に包まれ、辺りは赤々と…

弟が謀反を・・

宮中で酔いつぶれて寝てしまった天皇。しかし目を覚ますと、真っ暗な山奥だった。そばにいた男は、自分は臣下のアチでここは丹比野(たじひの)だと答えた。 「ア・・・アチか。一体これは、どうしたというのだ」 「はい、陛下・・実は弟君のスミノエさまが…

酒に酔って、目を覚ますと・・

仁徳天皇の崩御後は、御子のイザホワケが皇位を継いだ。第17代の履中天皇である。 さて、天皇が即位して間もないころのことである。難波の宮では、天皇により即位後初の大嘗祭が執り行われた。それも無事に済み、宮中では恒例の饗宴が行われていた。 そして…

枯野号

これも仁徳天皇の晩年のことである。 兎寸川(とのきがわ)の西岸に一本の高い木が生えていた。その木の影は、朝日が当たれば淡路島まで届き、夕日が当たれば高安山を越えたという。 この木を切って船を建造した。その船は俊足でとても性能が良い船であった…

卵を産んだ雁

さて、税を免除し貧しさを民と分け合って「聖帝」と呼ばれたり、浮気をしては嫉妬に狂った皇后イワノヒメに攻められたりと、波乱に満ちた仁徳天皇。しかし晩年は皇后イワノヒメと穏やかな日々を送っていた。 そんな晩年の天皇はある日、日女島(ひめしま)に…