古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

イザナギの自伝

そして、多賀の地へ

わたしが禊をし、三貴神を産んでから数年の時が経った。 わたしは悩んでいた。 悩みの種は末っ子のスサノオである。 アマテラスとツクヨミはそれぞれの世界に赴き、私が指示した通りの世界を治めている。しかしスサノオだけは違ったのだ。 スサノオは何年た…

三貴神が生まれた

わたしは再び浅瀬に戻ってきた。既に夜明は近い。 わたしは禊の仕上げをしようと思ったのだ。 浅瀬にしゃがみ込み、川の水をすくって左の眼を洗った。その時だった・・・ 辺りがパッと明るく輝いた。まばゆいばかりの、それでいてさわやかな光だった。 一瞬…

みそぎ

黄泉の国から帰ってきたわたしは、日向の橘の小戸の阿波木原に来ていた。 わたしは禊(みそぎ)のために、九州のこの地にやってきたのだ。 わたしは黄泉の国に行ってきた。黄泉の国は死者が行く穢れた国である。 その黄泉の国に行った私の体にも穢れがまとわ…

岩で道を塞いだ

黄泉の醜女や雷神の追手を振り払い、黄泉比良坂をのぼって、わたしは現世に戻ってきた。 しかし、ほっとしたのもつかの間だった。 私の眼に、坂を駆け上がってくるイザナミが目に入ったのだ。かつて愛した女神の、その鬼気たる表情、今も忘れられない。 醜女…

現世に戻ってきた

黄泉の醜女に追われ、追いつかれそうになる。 わたしは髪を束ねていたカズラをほどいて投げつけた。カズラは山ぶどうに変わり、それを醜女がもぎ取った食べている間に私は逃げた。 しかし醜女どもはあっという間に食べ終わると、再び私を追ってきた。見る見…

逃げる!

やっと会えたイザナミ、しかしそのおぞましい姿・・・私は思わず松明を落としてしまった。次の瞬間、踵を返すと一目散に逃げだしていた。 すると、背後からイザナミの声が聞こえた・・・確かにイザナミの声だが、優しかった昔のイザナミの声ではない・・・ …

イザナミに会えた!・・が・・

黄泉の国の宮殿の床に、イザナミは横たわっていた。 「ああ、イザナミ!」 わたしはイザナミに駆け寄る。しかし・・・ ・・・松明の光に照らされたイザナミの姿を見たとき・・・ 「うっ・・・!」 わたしは息をのんだ。 確かにそれはイザナミだった。しかし…

黄泉の宮殿に入る

イザナミは戸の奥に下がっていったようだった。再び黄泉の宮殿を不気味な静寂が包んだ。 私は待った。どれくらい待っただろうか・・ 暗い黄泉の世界では、時の流れが全く分からない。 一昼夜か、それとも二昼夜は立っただろうか・・なかなか出てこぬイザナミ…

遅かった・・

わたしはイザナミを迎えに黄泉の国まで来た。そして黄泉の国の宮殿で、扉越しにイザナミと話すことができた。 しかし、様子がおかしい・・・イザナミはなぜか、泣いているようだ・・・いったいどうしたというのだ・・ 「おい!イザナミ、どうした!お前、泣…

黄泉の国のイザナミ

わたしは死んだイザナミを連れ戻すために、死者の行く地である黄泉の国に来ていた。 黄泉の国でイザナミを探し歩くうち、石と土の宮殿を見つけた。辺りは静まり返り、それでいて重苦しく不気味な空気が漂っている。 私は確信した「この中に、イザナミがいる…

イザナミを迎えに行く

わたしは妻イザナミの死の原因となった、我が子火の神カグツチを斬った。 しかし、私の心は晴れなかった・・・晴れるわけもなかった。 残ったのは空虚な虚しさだけだった・・・ そしてわたしは決心した。 わたしはイザナミなしに生きていくことはできない・…

イザナミを葬り、カグツチを斬る

イザナミは死んだ・・・ 私は泣いた・・・どれぐらい泣いただろうか・・・ その涙からも神が生まれてきた。ナキサワメの神だ。しかし、その時はそこまで気が回らなかった・・目の前の、イザナミの死の悲しみで、心がいっぱいだったのだ。 わたしはイザナミの…

イザナミ、死す・・

わたしの目の前には、下半身に大やけどを負って瀕死で横たわるイザナミがいた。 「イザナミ!」 「・・・イザナギ・・・」 わたしは床に倒れているイザナミを抱き起す。 いったい、何が起こったというのだ・・・ その時、わたしはイザナミの傍らに、一人の神…

イザナミに何が・・・

日本の島々が産まれ、国を守る神々も生まれた。日本の国は魂が満ち溢れ、脈動する生き生きとした国になった。 妻イザナミは本当によく頑張った。妻にはどんなに感謝してもしきれない。わたしたちはこの日本で、子供の神々に囲まれ、幸せに過ごしていた。 そ…

神々を産む

こうして日本を形作る島々が生まれた。 わたしたちは生まれた島に降り立った。 そこは草も木もない、ごつごつとした岩場だらけの島だった。 島を産んだだけで満足してしまうわけにはいかない。ここに国を造り、発展させていかなければならない。 どうすれば…

日本の国が産まれる

わたしとイザナミは、オノゴロ島の宮殿に帰り、再び天の御柱の前に立った。 わたしはは先にやった時と同じように、太い柱をゆっくり左に回っていった。そして右に回っていたイザナミが柱の陰から現れる。 そしてわたしから口を開く 「イザナミ・・・なんてき…

太占の結果は・・・

その夜、造化三神の神殿。庭には桜を伐った薪が積み上げられていた。 薪の前にアメノミナカヌシさまがお立ちになり、その後ろにわたしとイザナミが並んで立つ。その周りを造化三神や、その他八百万の神々が取り囲んだ。 準備が整い、太占(ふとまに)が始ま…

高天原に帰る

わたしたちは悩んでいた。 立派な国を創ろうと勇んでオノゴロ島に降り立ったのに、なかなか子宝に恵まれないのだ。このままでは国を創ることができない。 そんな時、イザナミが言った 「あなた・・一度、高天原に戻って、神様がたに相談してみない?」 「そ…

生まれた子は・・

わたしとイザナミが愛を誓いあい、時がたった。妻イザナミは妊娠していた。 そして子が産まれた。わたしたち夫婦にとって初めての子だった。 しかし・・ 生まれた子を見てわたしたちは衝撃を受けた。生まれた子はヒルコ・・そう、手も足もない、まるでヒルの…

柱を回って愛を語る

「ええ、いいわ・・」 イザナミは、わたしを受け入れてくれた。 わたしはイザナミに続けて言った 「ならば、ぼくらで夫婦の契りをかわそうじゃないか」 「え?どうするの」 「宮殿の中央には、天まで届く天の御柱が建っている。この柱を二人で回って、愛のこ…

二人の体

わたしとイザナミは、オノゴロ島に建てた宮殿に入っていった。 わたしはイザナミのほうを振り返ってみた ・・・美しい・・きれいだ・・ これからイザナミとここに暮らすことになるのか・・ わたしは我を忘れていた。 「どうしたの、イザナギ」 イザナミの声…

宮殿を建てた

わたしとイザナミは、天浮橋を伝ってできたばかりのオノゴロ島に降り立った。 そこには何もない、草も木もない、岩さえもない、殺風景な島だった。 島に降りたはいいが、さあこれからどうすればよいのだろう・・・。隣を見ると、イザナミが不安そうな顔で私…

オノゴロ島ができた

一刻後 わたしとイザナミは、天の浮橋に立っていた。ここからなら、下界の様子がよく見える。 そこには海も陸もなかった。ただ一面、茶色のどろどろしたものが広がっているだけだった。 わたしは不安になってきた。 「こんな、何もないところに国を作ろうと…

天の沼矛を賜る

その日、わたしはイザナミと一緒に造化三神の前に進み出た。祭壇の中央にアメノミナカヌシ様、左右にタカミムスビさまとカミムスビ様が鎮座されている。この三柱が造化三神と言われる、世の中で一番最初に生まれてきた神だ。 張り詰めた空気が流れている。わ…

イザナギの自伝 プロローグ

わたしの名はイザナギ。令和の今の時代からさかのぼる、遠い遠い昔のある日、高天原に生まれた神である。 わたしには父も母もいない。 ・・いや、孤児という意味ではない。本当にいない、物理的に存在しないのだ。 ある日気が付けば父も母もなく、高天原に生…