父オシハが埋められていた場所を教えてくれた老婆。天皇はその功績を称え、老婆に「置目老媼」(おきめのおうな)の称号を与えた。
それだけでなく、天皇は老婆を宮中に召し出し、住まわせたのだ。
天皇はことあるごとに老婆を呼び出していた。宮中に造った老婆の住まいには鐘を置き、その鐘から延びる紐は天皇の御所につながっていた。
紐を引けば鐘が鳴る。鐘がなると老婆は宮中に参上していた。
天皇は毎日のように鐘を鳴らし、老婆を呼び出していた。
幼いころ兄に連れられて播磨へ逃走し、身分を隠し牛や馬の世話をしながら過ごした天皇である。母も祖母も遠い記憶のかなたであった。
天皇は老婆の姿に自分の肉親の姿を重ね合わせていたのかもしれない。
しかしそんなある日、老婆から申し出があった
「陛下・・これほどにまでよくしてくれて、わたくしは幸せでございます。しかしわたくしはもう年を取りました。つきましては故郷の淡海に帰らせいただけないでしょうか」
天皇だけでなく、兄のオケも老婆を母親のごとく、祖母のごとく慕っていた。しかし、大恩ある老婆の願いを聞かずに宮中にとどめ置くのも忍びない。
天皇は老婆の願いを聞き入れることにした。
「置目老媼よ・・明日には山の向こうに隠れて、もう会えないんだなあ・・」
天皇は最後の言葉を老婆に送った。天皇の眼には涙があふれていた。
翌日、淡海に帰っていく老婆を、天皇とオケはいつまでも、峠のかなたに見えなくなるまで見送っていたという。
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☆馬見岡綿向神社
境内摂末社の村井御前社に置目老媼が祀られています。
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