そこで天皇の前に現れたのは、巨大なイノシシであった。
「よし、あのイノシシはわたしが仕留める。お前らは手を出すな!」
天皇は供についてきた近習のものにそういうと、弓を構え矢をつがえた。
狙いを定め、矢を射る。
ぴゅ~~う~~う~ん!
矢は大きな音をたててイノシシのほうに飛んでいった。
「あっ!しまった!」
矢を射った天皇は叫んで青ざめ、見ていた近習も顔色を変えた。
そう、天皇が射った矢は、戦いの合図に使う鏑矢(かぶらや)だったのだ。大きな音を立てるが殺傷能力はほとんどない。
イノシシは天皇のほうをみる。明らかに殺気立ち、怒っている。
天皇は慌てて次の矢をつがえようとした。しかし遅かった・・
天皇が構える前に、イノシシは突進してきた!間に合わない!
恐怖にかられた天皇は、慌てて弓矢を捨て、そばにあった木によじ登った。そこに突進してきたイノシシがぶつかる。
どんっ!
鈍い音を立てて、それほど大きくはない木が揺れる。枝に掴まっていた天皇は落ちそうになる。落ちてなるものかと必死で捕まる。
近習のものはおろおろするだけだった。下手に矢を射ると天皇に当たる恐れもあるし、そもそも天皇からは手を出すなと言われている。横暴な天皇の命令に反すると後が怖い。
そうこうしている間もまたイノシシは木にぶつかり揺らす。その木は、反動でゆらゆらと大きく揺れる。必死で捕まる天皇の顔からは血の気が引いていた。
幸いなことに、そのうちイノシシはあきらめて去っていった。
降りてきた天皇、気の毒にやつれて、まだガタガタ震えている。
しかし近習たちの前では強がりを言っていた
「日本を治める天皇も、恐ろしい猪には勝てないさ・・のう、助けてくれた木よ!」
・・・しかしこの強がりも、いつまで続くのだろうか・・
前<<< 杯に落ち葉が・・ - 古事記の話
次>>> マネするな! - 古事記の話
古事記上巻 日本神話 目次
古事記中巻 神武天皇~応神天皇 目次
古事記下巻 仁徳天皇~推古天皇 目次
≪リンク≫
カリバ旅行記
温泉の話
駅弁の話
古事記ゆかりの地を訪ねて