大県主の屋根の上に鰹木がのっていることを見とがめ、家を燃やすように命じた天皇。兵士たちは大県主の家に押し入り、稲わらを積み上げ今まさに火をつけようとしていた。
このただならぬ様子に家の主人、大県主が飛び出してきた。事情を知った大県主は、遅れてやってきた天皇の前に、頭を地につけて平伏し必死に訴えた。
「お許しください!身分が低い者の身でありながら、分不相応なことをしてしまいました!」
「いまさら悔いてももう遅い。そなた、自分が天皇に並ぶ存在であると示したくてこんな家を作ったのだろう。
おい、兵士ども!何をしている、早く火をつけろ!」
「お待ちください!私はそんな誤った心などは全く持っておりません!その証の品を献上いたします!今しばらくお待ちを!」
「・・・証の品だと・・面白い!持ってきてもらおうか!」
「はい・・・ありがとうございます!」
大県主は急いで屋敷に駆け戻っていった。
ふん、証の品といったって、どうせきらびやかな玉飾りの付いた、高価な何かを持ってきて、これで許してくれというんだろう・・・天皇はせせら笑っていた。
・・・ところが・・・
再び家から出てきた大県主、同族のコシハキを伴っていた。
大県主は再び平伏し、コシハキが天皇の前に進み出る。そのコシハキの手には・・
・・縄が握られ、その縄の先には・・
・・背中に白い布をかけ、首に鈴をつけた・・・
一匹の白犬がいた。
大県主は平伏したまま
「証の品でございます、どうかお納めください」
という。
コシハキからその綱を手渡された天皇、あっけにとられた。コシハキは下がり、天皇と犬だけが残される。
犬は穢れのない純粋な目で天皇を見つめていた。
天皇は笑い出し
「ハハハ・・・お前、面白い奴だな!屋根の鰹木は急いで取り外しとけよ。
おい、兵士ども!行くぞ!」
こうして天皇は火をつけるのをやめ、犬を引きながら上機嫌で大県主の家を離れていった。
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(挿絵はイラストレインより)