カルは弟のアナホに捕らえらえれた。
皇太子にかかわらず、同母の妹と情を通じた挙句、朝廷を飛び出し挙兵の準備をしていたのである。その罪は軽くはない。
カルの皇太子の地位は剥奪された。カルは伊予の湯に流刑が決まった。
カルを乗せた船は、闇夜に紛れて出港することになった。世間の注目を集めた事件であるだけに、日中だと野次馬が集まって混乱しかねない。
その日、カルは自分が乗り込む舟を目の前にして
「空飛ぶ鳥よ・・ソトオリに伝えてくれ・・
わたしはいつか、帰ってくるぞ・・それまで私の座る敷物はそのままにしておいてくれ・・妻よ、私の無事を祈ってくれ・・」
涙を流しながら言った。
カルは桟橋から板を渡って船に乗りこむ。
その時だった・・
「お兄様~」
懐かしい声が響く。妻であり妹であるソトオリだ。カルは振り返る。
しかし電気もない時代、暗闇で何も見えない。
声だけが響く。
「ソトオリ!ソトオリなのか!」
「お兄様・・闇夜に海辺を歩くと、貝殻を踏んであぶのうございます。明るい昼間にお立ちになったらいいものを・・」
・・・しかしそれ以上の会話は許されなかった。カルは衛士に急き立てられ船に乗りこみ、あわただしく出港した。
「お兄様~」
闇夜にソトオリの声が響いた。
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☆伊予の湯
(道後温泉本館)
道後温泉のこととされています。
古事記、万葉集、伊予国風土記などにも記載がある古い温泉として知られています。
≪リンク≫
カリバ旅行記
温泉の話
駅弁の話
古事記ゆかりの地を訪ねて