古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

杯に落ち葉が・・

 

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またある時、新嘗祭の饗宴が開かれていた。その日の饗宴はたわわに茂ったケヤキの木の下で行われていた。

 

そこ三重から来た采女(うねめ、食事などの世話を行う女官)が天皇の前に進み出て、酒が入った杯を両手に捧げ、頭を下げた。ところが・・

杯には茂ったケヤキの木から落ちた葉が一枚浮かんでいた。采女はそれに気づかないでいたのだ。

 

天皇は差し出された杯を見ると、ケヤキの落ち葉が浮かんでいる。

それを見た天皇、たちまちその表情が険しくなってもいく。

 

そのただならぬ気配を察した采女、何事かと下げていた頭を上げる。するとそこに、自分の手に持つ杯に浮かぶ落ち葉が目に入った。

事情を察した采女、たちまち顔から血の気が引き、震えだす。

 

天皇

「落ち葉が浮かんだ酒をわたしに飲ませようとするとは・・・いい度胸だ・・・」

言いながら剣を手に取ると、采女の頸に当てた。

 

饗宴の場にいた近習一同も青ざめる。しかし、横暴な天皇を諫める勇気があるものなど、誰一人いなかった。

 

その時、采女は杯を差し出したまま言った

「その剣を突き刺すのはしばしお待ちください!申し上げたいことがございます!」

 

天皇は剣を采女の頸に当てたまま動きを止める。近習一同かたずをのんで見守っていた。

采女は続けて言う。

 

「宮殿を覆うケヤキの木は、日本の国を覆う陛下のご威光のごとく茂っております。そのケヤキから日本の国に舞い降りた木の葉であります。

 

わたくしが差し出したこの杯には、イザナギの大神とイザナミの大神がこおろこおろとかき回しお造りになったオノゴロ島のように浮かんでおります。

 

恐れ多くもこれは、いにしえより続く天の御子の証にございます」

 

それを聞き終わると、天皇

「ふ・・なるほどな」

 

剣を納めて、落ち葉が入ったままの杯を受け取り、一気に飲み干した。

 

近習一同、胸をなでおろしたのは言うまでもない。

天皇はその采女を誉め、多くの褒美を下げ渡したという。

 

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雄略天皇

 

21代雄略天皇と25代武烈天皇は、日本書紀では横暴極まる暴君して描かれています。

 

一方、古事記では、雄略天皇は暴君としての一面はあるのですが実際に殺したのは政敵となる兄弟親族のみ、志幾の大県主も三重の采女も最終的には許しています。武烈天皇は系譜の紹介のみで事績の記述はありません。

 

記紀の記述が史実かどうかはともかく、この時代、天皇の権威は高まり専制君主として権力をふるっていたのでしょう。

雄略天皇は暴君の一方で、どこか抜けた天然っぽいキャラでもあります。

 

日本書紀支那易姓革命の考え方を取り入れたとも云われます。雄略天皇の血統は次の代で絶えてしまい、後を継いだ履中天皇の血統は武烈天皇で絶えて、応神天皇の血統に戻ります。

徳のない王朝となった時に革命がおこるという考え方に基づき、あえて極悪非道な君主として描かれた(捏造された)とも云われます。

 

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