ある日、天皇のもとに、一人の老婆が訪ねてきた。老婆はたくさんの進物を持参し、天皇に献上してきた。
老婆の謁見を受けた天皇。その名もない老婆に不信を抱く。
天皇は老婆に対して
「数多くの献上、感謝する。しかし、そなたはまた、何のために来たのだ?」
と言った。
天皇のもとには利権を求めて様々な豪族や商人が献上品を持ってくる。しかし、この老婆はそんな利権を求めてきたようにはとても見えなかったのだ。
その老婆は
「ああ、陛下・・もうお忘れなのですね・・私は引田部(ひけたべ)のアカイコでございます。」
「なに?引田部?・・・アカイコ?」
「はい、さようでございます。某年某月に陛下からの御命令を受けました」
「・・・ひ・・・引田部?・・ア・・・アカイコ・・?・・
そういえば・・
あ・・・あの時のアカイコか!?」
「ああ・・・陛下・・思い出されたのですね・・」
そう、それは今から何十年も前のこと・・・
天皇は美和川に巡行に出ていた。そこで、川辺で洗濯をしている、美しい少女を見かけた。
天皇は少女に近づき
「そなた、名は何という」
と聞いた。
いきなりのことに少女は戸惑いながらも
「わたくしは引田部のアカイコと申します」
と答えた。
天皇は
「わたしはそなたを宮中に召し出したい。近いうちに迎えに行く。それまで嫁には行かず待っていてくれ」
と言った。
ここで少女は自分に声をかけた男が天皇だと知ったのであった。
そして天皇はそれっきり忘れてしまったまま召し出すことなく、今に至っていたのだった。
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☆引田部
現在の奈良県桜井市白河と言われています。秉田神社(ひきたじんじゃ)に伝承が残ります。
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