古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

大刀

ヤマトタケルの自伝 10 イズモタケルの屋敷に滞在して数日。イズモタケルはわたしをすっかり信用し、わたしは偽りの友情関係を築き上げていた。 そんな、ある日のことである。わたしとイズモタケルは、斐伊川で連れ立って水浴びをしていた。 そして水から上…

イズモタケル

ヤマトタケルの自伝 9 九州の熊襲でクマソタケルの兄弟を討伐し、肥の国では土蜘蛛を討伐した。そしてわたしは出雲に来ていた。 この地のイズモタケルもまた、大和の朝廷に服属していなかったのだ。わたしはイズモタケルも討伐してから大和に帰ろうと考えた…

肥の国にて

ヤマトタケルの自伝 8 クマソタケルの兄弟を討ち、ヤマトタケルとなったわたしは、熊襲国を離れ肥の国に来ていた。 肥の国のある村を訪ねたときのことである。クマソタケルをわたしが討伐したという話はその村にも既に伝わっており、村人はわたしを歓迎して…

ヤマトタケルになる

ヤマトタケルの自伝 7 ふいにクマソタケルの兄の動きが止まった。兄はわたしの身体に違和感を覚えたのだろう。そして言った 「お前、女ではないな・・・・・お前・・・」 しかしその言葉を言い終えることはなかった。 わたしはその時、隠し持っていた短剣で…

宴席で・・・

ヤマトタケルの自伝 6 わたしは女装して、新築祝いの準備のために屋敷に出入りする下男下女にまぎれこんで、クマソタケルの兄弟の屋敷に忍び込むことに成功した。 そして、その夜・・・ 屋敷の一室では、新築祝いの宴がにぎやかに開かれていた。 上座にはク…

屋敷に潜入

ヤマトタケルの自伝 5 マソタケルの兄弟の討伐の命クを父の天皇から受けたわたしは、伊勢に立ち寄り叔母のヤマトヒメから着物を借りて、西国に向かっていた。 さて、クマソタケルが住む地、九州の熊襲まで長い旅の末たどり着いた。クマソタケルの屋敷を訪ね…

ヤマトヒメから

ヤマトタケルの自伝 4 わたしは伊勢に来ていた。そして叔母のヤマトヒメを訪ねていった。 ヤマトヒメは伊勢神宮の斎宮としてアマテラス大御神に仕えている。 「伯母上、お久しぶりです」 「あら、オウス!しばらく見ない間に大きくなったわね!元気してた?…

ねぎ教え諭せ

ヤマトタケルの自伝 3 父の天皇から兄のオオウスに、朝夕の食膳への参列について「ねぎ教え諭しなさい」(丁寧に教え諭しなさい)と言われた翌朝。 わたしは夜のうちに兄オオウスの屋敷に忍び込み、便所の陰に隠れ、朝になるのをまった。 そして、朝になった…

兄のオオウス

ヤマトタケルの自伝 2 わたしはその日、父の天皇(すめらみこと)に呼ばれた。そしてこう言われたのだ。 「そなたの兄のオオウスが朝夕の食膳の席に出てこないのはどういうことだろう。朝夕の食膳は神に供える大事な儀式だというのに・・・」 そう、兄のオオ…

ヤマトタケルの自伝 プロローグ

ヤマトタケルの自伝 1 わたしの名はヤマトタケル。 もっともヤマトタケルというのは成人してからの名で、幼少期はオウスと呼ばれていた。 わたしはオオタラシヒコの天皇(すめらみこと)の皇子として生まれた。父のオオタラシヒコは初代神武天皇から続く第12…

ときじくのかぐの木の実

野見宿祢の自伝 26 わたしがケハヤとの天覧相撲のために出雲から宮中に召し出され、そのまま天皇(すめらみこと)にお仕えするようになって、長い年月が過ぎた。 わたしがお仕えしていた第11代の天皇陛下(垂仁天皇)は、その年の秋に崩御されたのである。 …

ヒバスヒメの御陵

野見宿祢の自伝 25 陛下が寵愛されていたヒバスヒメさまが薨去された。 陛下のお心を痛めていたのは、ヒバスヒメさまが薨じられた悲しみもさることながら、その葬儀のことだった。 陛下の弟君のヤマトヒコさまが薨去されたときは近習のものが生きたまま殉葬…

殉葬

野見宿祢の自伝 24 アマテラス大御神の御魂は伊勢の地に祀られた。そして数年の時が経った。 その年の10月、陛下の同母弟であるヤマトヒコさまが薨去された。そして葬儀は11月に行われ、身狭桃花鳥坂(むさのつきさか)に陵墓を築いて葬られたのである。 そ…

伊勢の地に

野見宿祢の自伝 23 アマテラス大御神の御魂はヤマトヒメさまに託された。ヤマトヒメさまは大御神の魂の鎮まるところを求めて各地を旅していた。 ヤマトヒメさまからは逐次、状況について便りが届いていた。 ヤマトヒメさまは宇陀の筱幡(ささはた)に一旦落…

アマテラスを祀る

野見宿祢の自伝 22 ホムチワケさまも言葉をしゃべれるようになり宮中が落ち着いてから、数年がたったある日のことである。 わたしは陛下に呼ばれ、御前に進み出た。すると陛下は 「先帝の崇神天皇は賢く聡明な聖帝であった。とても慎み深く、良き政治を行い…

ヒナガヒメの正体は・・・

野見宿祢の自伝 21 「ホムチワケは大和の宮殿に帰っている。ノミもすぐ帰れ」と陛下から勅使が届いた。 ホムチワケさまは我々に何も告げることなくおひとりで大和に帰ったのか・・・何故・・・わたしは訳が分からなかった。 とにかくその日のうちにわたしは…

ホムチワケさまがいない!

野見宿祢の自伝 20 さて、ホムチワケさまが言葉を話せるようになり、そのことを大和に急使を立てて知らせた翌日。 その日、ホムチワケさまは少数の従者だけを連れて散歩に出かけていた。わたしは斐伊川の仮宮にとどまり、オオクニヌシの神殿の建て替えや今後…

しゃべった!!

野見宿祢の自伝 19 わたしはホムチワケさまのお供をして、わたしの故郷である出雲の国に来ていた。 「父上、お久しぶりです。大和のほうから伝令が来て、話は承っております」 出迎えてくれたのは、わたしの息子であり、わたしの後を継いで出雲国造を務めて…

出雲へ旅立つ

野見宿祢の自伝 18 わたしはホムチワケさまの伴として出雲に向かうことになった。 しかし、陛下は申されたのだ。 「果たして本当にオオクニヌシの大神を拝むと、ホムチワケが話せるようになるのか・・・今一度、占いで確かめよう」 そして陛下の命により朝廷…

再び出雲へ

野見宿祢の自伝 17 「陛下の夢に出てきた神は、出雲に鎮座されますオオクニヌシの大神でございます」 占い師は言った。 「出雲・・・というと、ノミ、そなたの出身地だな。そなたが出雲国造を退いて上京してからは、息子のキイサツミが後を継いでオオクニヌ…

「古事記の話」にお越しいただきありがとうございます

☆古事記を小説風に書き直してみました。 ☆古事記を基本としつつ、話によっては日本書紀や風土記のエピソードも取り入れながら構成しています。 ☆わたしは古代史好きの素人であり、学者でも専門家でもありません。ネットで調べ調しながら書いており、また皆様…

宮を修理せよ

野見宿祢の自伝 16 白鳥を見ても、ホムチワケさまが言葉を発することはなかった。 陛下は大変落胆されていた。 そんなある日のこと、わたしは陛下に呼ばれた。 御前に出ると、陛下は 「ノミ、占いの準備をしてくれ」 と仰せになる。 「占い・・・でございま…

白鳥は飛んで行く

野見宿祢の自伝 15 それまで一言の言葉も話さなかったホムチワケさまは、空を飛ぶ白鳥を見て「ああ・・ああ・・」と仰せになった。 これを聞いた陛下は、大変な喜びようだった。 「おい、ノミ!聞いたか!ホムチワケがしゃべったぞ!」 「はい、確かに・・・…

言葉を話さないホムチワケ

野見宿祢の自伝 14 サホビコの反乱から十数年の時が経った。 陛下はサホビメさまの後、后とされたヒバスヒメさまと一緒に過ごされていた。陛下はサホビメさまと同じように、いやそれ以上にヒバスヒメさまを寵愛されていた。 そして、サホビメさまの忘れ形見…

悲劇、再び・・

野見宿祢の自伝 13 サホビコの反乱は、陛下が率いる皇軍によって鎮圧された。 しかし、同時に陛下が寵愛していた后のサホビメさまも亡くなってしまった。 陛下のお悲しみは、見ていてもお気の毒なほどであった。表向きは公務に精を出していたが、その陰でサ…

最期

野見宿祢の自伝 12 サホビメさまは後ろを振り向き、屋敷の中に入ろうとされていた. 陛下は慌てて叫ぶ 「待て!サホビメ!これを見ろ!お前との固い絆を誓って結んだ衣の紐だ!これをお前以外の、誰がほどくというのだ!!」 しかしサホビメさまは陛下に背を…

御子の名前は

野見宿祢の自伝 11 「サホビメ!聞こえるか!! 余の声が聞こえたら、門の外に出てきてくれ!!」 陛下はサホビコの屋敷に向かって叫ぶ。 ・・・どのくらいの時が立っただろうか・・・ サホビコの屋敷の門が開いた。そして出てきたのだ・・・サホビメさまが…

天皇の叫び

野見宿祢の自伝 10 サホビメさまを奪還する作戦は失敗に終わった。陛下の落胆は、見るに忍びないほどだった。 陛下は茫然とされていた・・・ ・・・しかし、陛下の心中は察するに余りあるが、そうかといって陛下がこのご様子では兵の士気にもかかわる・・・ …

サホビメ奪還なるか?

野見宿祢の自伝 9 サホビコの屋敷の扉が開いて、サホビメさまが出てきた。赤子を抱いている。 サホビメさまは仰せになる。 「陛下・・・陛下の御子でございます。どうぞ、お引き取りくださいませ」 そこで、陛下は選抜した兵士に「行け!」と命令される。 こ…

サホビメを連れてこい!

野見宿祢の自伝 8 皇軍はサホビコの屋敷を取り囲んだが、それ以上動けず膠着状態に陥っていた。屋敷の中には陛下が寵愛するサホビメさまがおり、サホビメさまは陛下の御子を懐妊している。うかつには踏み込めない。 そのまま時だけが過ぎた。 そんな時、サホ…