野見宿祢の自伝 16
白鳥を見ても、ホムチワケさまが言葉を発することはなかった。
陛下は大変落胆されていた。
そんなある日のこと、わたしは陛下に呼ばれた。
御前に出ると、陛下は
「ノミ、占いの準備をしてくれ」
と仰せになる。
「占い・・・でございますか?それはまた、どういうわけで?」
「うむ、夢を見たのだ」
そういって、陛下は昨夜見たという夢のことを話された。
なんでもその夢のなかで、一柱の神が出てきたそうだ。その神は
「そなたの皇子を我が宮に参らせるとともに、我が宮を天皇の宮殿のごとく修理せよ。そうすればそなたの皇子は言葉を話すようになるだろう」
それだけ言って、消えてしまったということだ。その神がどの神かわからないので、占いで確かめたいということだった。
そこでわたしは、朝廷専属の占い師を呼び出した。
その夜、朝廷の庭ではかがり火がたかれていた。
占い師は太占(ふとまに)の占いを行った。神官によってのりとが唱えられる中、火の中にうやうやしく神聖な鹿の肩甲骨がくべられる。
火は闇の中、明るい光を放ちながら燃えている。やがて、ぴしっ!、と甲高い音が響き渡った。燃え盛る火にあぶられた鹿の肩甲骨にひびが入ったのである。
そのひびの形を読み取った占い師は、静かに言った。
「陛下の夢に出てきた神は、出雲に鎮座されますオオクニヌシの大神でございます」
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☆太占
神話の時代、イザナギとイザナミの子産みの話、およびアマテラスの岩戸隠れの話に続いて太占の占いが出てきました。
太占(ふとまに)は鹿の肩甲骨を桜の木で焼き、骨に入ったひびの形で占うものです。弥生時代の日本の風俗を記した支那の歴史書「魏志倭人伝」には、「倭人は何かあれば骨を焼いて吉凶を占う。その様子は冷亀法に似ている」と記述があります。
支那の国では亀の甲羅を焼いて占ったとされ、占いのために甲羅に刻んだ文字が漢字の原型と言われる甲骨文字です。
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