野見宿祢の自伝 21
「ホムチワケは大和の宮殿に帰っている。ノミもすぐ帰れ」と陛下から勅使が届いた。
ホムチワケさまは我々に何も告げることなくおひとりで大和に帰ったのか・・・何故・・・わたしは訳が分からなかった。
とにかくその日のうちにわたしはあわただしく出立し、大和への道を急いだのだった。
大和に帰り、御前に出廷すると、そこには陛下の横に、ばつの悪そうな顔をして控えているホムチワケさまがいた。
「ノミ、ご苦労だったな。おかげでホムチワケも言葉が話せるようになった。感謝するぞ」
陛下が仰せになる。
「恐れ入ります。しかし・・・それにしても、ホムチワケさまがわたしに何の知らせもなく大和に帰られたのは・・・一体どういうわけで・・・」
「ははは・・・それがな・・・」
陛下はいたずらっぽく笑うと、ホムチワケさまのほうを見た。ホムチワケさまは顔を赤くして恐縮している。
陛下はホムチワケさまに起こった出来事を、愉快そうに話され始めた。
それは、ホムチワケさまとヒナガヒメが一夜を過ごした翌朝のこと。
ホムチワケさまは、朝日の光でまだ寝ているヒナガヒメの姿を見たそうだ。
そこには、美しいヒナガヒメの寝顔・・・
・・・では無く・・・
そこに横たわっていたのは、一匹の蛇、だった!
(画像は写真ACより)
その姿を見たホムチワケさまは、驚愕し、一目散に逃げだした。しかし・・・
逃げ出したホムチワケさまに気づいた蛇のヒナガヒメは、空中を飛んでホムチワケさまを追ってきたそうだ。
ホムチワケさまは慌てて海の上に舟をこぎだし逃げたが、蛇は海上を不気味に照らしながら追ってくる。ますます恐ろしくなったホムチワケさまは、船を岬に乗り上げ、一目散に峠を越えて、大和まで逃げ帰ったそうだ。
さしもの蛇のヒナガヒメも、大和までは追ってこなかったという。
「ははは・・・こいつ、話せるようになったかと思ったら、このざまだからな!さすが、御先祖の天孫ニニギの血を引くだけのことはあるわ!」
愉快そうに話す陛下に、わたしは苦虫をかみつぶしたような顔で、
「陛下・・・笑い事ではございませんよ・・・」
とつぶやいたのだった。
朝廷から出雲のオオクニヌシの神殿に特使が派遣され、神殿が新しく壮大に建て直されたのは、それから間もなくのことであった。
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☆富能加神社
ホムチワケの話はここまでで、以後古事記にはホムチワケは登場しません。
古事記には出雲でホムチワケが滞在していた所を「檳榔之長穂宮」(あじまさのながほのみや)と記載してあります。
現在の島根県出雲市所原町の富能加神社とされており、ホムチワケとヒナガヒメを主祭神として祀ってあります。
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