野見宿祢の自伝 11
「サホビメ!聞こえるか!! 余の声が聞こえたら、門の外に出てきてくれ!!」
陛下はサホビコの屋敷に向かって叫ぶ。
・・・どのくらいの時が立っただろうか・・・
サホビコの屋敷の門が開いた。そして出てきたのだ・・・サホビメさまが。しかしサホビメさまの両脇には、サホビコ軍の屈強な兵士が護っている。
「サホビメ・・・お前は余の后だ・・・帰ってきてくれ・・・」
陛下は泣くような声でサホビメに向かって仰せになった。
しかしサホビメさまは、悲しそうにうつむき、首を振って答える。
「陛下・・・大変お世話になりました・・・陛下のご寵愛、本当にうれしく思います・・・
・・・しかし、わたくしは兄を見捨てることもできません・・・
・・・陛下、お元気で・・・」
そういうと、サホビメさまは屋敷に戻ろうとされる。
陛下は慌てて仰せになった。
「サホビメ!待て!
昔から子の名は母親がつけるのが習わしだ!!この子の名はなんとする!?」
「おそらく稲束で守られたこの屋敷は、これから猛火に包まれるでしょう。火中(ほなか)に生まれたのだから、ホムチワケという名がよろしいでしょう」
「しかし、母が居なくてこの子を、どうやって育てるというのだ!!」
「乳母を定めればよいだけです。それに湯あみをする係りの者も決めて養育してください」
陛下はあせった声で叫び、それに対してサホビメさまは静かに答えられていた。
陛下としては、なるべく時間を稼いで、その間にサホビメさまの翻意を促したい一心なのだろう。
・・・しかし、それももう、限界だった・・・
サホビメさまは「陛下、お元気で」と言葉をかけたかと思うと、後ろを振り向き、屋敷の中に入ろうとされていた・・・
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☆ホムチワケ
ホムチワケは古事記の系譜では「品牟都和氣命」(ほむつわけのみこと)、サホビメの命名の場面では「本牟智和氣御子」(ほむちわけのみこ)と表記されています。日本書紀での表記は「誉津別王」「誉津別皇子」(ほむつわけのみこ)などです。
ホムチワケのホは「火」、ムチは「貴」すなわち高貴な生まれをさし、「ワケ」というのは皇族や貴族の男性名に使われる称号です。
すなわち「火の中で生まれた高貴な男」の意味で、火の中で生まれた海幸山幸の3兄弟、ホデリ・ホスセリ・ホオリと共通するものがあり、伝承の何らかの重なりがあるのかもしれません。
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