古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

ときじくのかぐの木の実

野見宿祢の自伝 26

 

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わたしがケハヤとの天覧相撲のために出雲から宮中に召し出され、そのまま天皇(すめらみこと)にお仕えするようになって、長い年月が過ぎた。

 

わたしがお仕えしていた第11代の天皇陛下垂仁天皇)は、その年の秋に崩御されたのである。

荘厳な葬儀が行われ、陛下のご遺体は菅原の御立野(すがわらのみたちの)に壮大な御陵を築き葬られた。

そして陛下の御子であるオオタラシヒコさまが第12代天皇景行天皇)として即位された。

 

こうして天皇の代替わりの儀式もあらかた済んで、落ち着いたころのことである。

 

先帝である垂仁天皇陛下の忠臣であったタジマモリが、常世国(とこよのくに)から日本に帰国してきた。

彼は先帝陛下の命を受けて、「ときじくのかくの木の実」を探し求めるために海外に出向いていたのである。

 

「ときじくのかくの木の実」は不老不死の妙薬と伝えられていた。そして先帝陛下は、日本の人民の幸せを願い、この身を日本でも育てて定着させようとしていたのである。

 

遠い海外の国で、天皇崩御も知らず、ただひたすら天皇の命に従って「ときじくのかくの木の実」を探し求めていたタジマモリ。

そして常世国でその実を見つけ、苦難の末に持ち帰ってきたとき、すでに垂仁天皇はこの世のものではないと知ったのであった。

 

タジマモリが受けた衝撃は相当なものであった。

 

彼は持ち帰った木の実の束を先帝陛下の御陵に供えた。

そしていつまでも先帝陛下の御陵の前で泣いていた。

 

かと思うと、突如

「ああ、陛下!わたくしは、ときじくのかくの木の実を持ち帰ってまいりました。なのに、陛下は・・・ああ・・・」

と叫んだかと思うと、そのままうずくまってしまったのである。

 

彼に付き添ってきたわたしは心配して

「タジマモリどの、大丈夫ですか?・・・」

と声をかけ、肩に手をかけた。すると・・・

 

タジマモリの体は、そのまま力なく横に倒れてしまった・・・死んでいたのである・・・

タジマモリの遺体は、垂仁天皇の御陵のそばに塚を築いて葬られた。

 

 

そしてこの後、わたしは新たに即位した新帝陛下にいとまごいを願い出た。この願い出は受理され、わたしは出雲に帰ることになった。

 

そしてわたしは長年仕えた先帝陛下の御陵に手を合わせてから、出雲の国への旅路に着いたのであった。

 

  ー 野見宿祢の自伝 完 ー

 

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野見宿祢の自伝 目次

 

 

☆ときじくのかぐの木の実

 

古事記ではこの話の最後は「ときじくのかぐの木の実とは、今の橘である」と結ばれています。この「橘(たちばな)」が何かについてはいろいろ議論があるようですが、柑橘系の一種であることは間違いないでしょう。

ちなみに現在「タチバナ」と言っている木の実は直径3㎝ほど、酸味が強く生食には向きません。マーマレードに加工されることはあるようです(wikipediaより)

 

ときじくのかぐの木の実を持ち帰ったタジマモリは新羅の王子を祖先に持っています。タジマモリは祖先である皇子アメノヒボコが流れ着いた但馬の中島神社に祀られ、菓子の神として信仰されています(昔は「菓子」と言えば果物のことだった)

 

karibaryokouki.hatenablog.com

 

☆宝来山古墳

 

垂仁天皇の御陵とされており、古墳を取り囲む堀の南東部に浮かぶ島はタジマモリの墓と伝えられています。

 

宝来山古墳 wikipedia

 

 

☆立野

 

日本書紀には垂仁天皇崩御後の野見宿祢については記述がありません。

 

播磨国風土記には

「土師の弩美宿祢(野見宿祢)が出雲に行く時、日下部の野で病気で死んだ。その時、出雲の国から大勢の人が来て並び立ち、人々は河原の石を持ち上げて運び、墓を造った。このことからこの地を立野というようになった」

という記述があります。

 

兵庫県たつの市には野見宿祢神社があり、境内の塚が野見宿祢の墓と云われています。

 

wikipedia 野見宿祢神社

 

野見宿祢が語る垂仁天皇の御代の物語、完結です。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

次回からヤマトタケルの物語を、自身の自伝という形で描いていきたいと思います。9月中に始められればいいなと思っています。

 

野見宿祢ツイッターアカウントはヤマトタケルが引き継ぎますが、物語が始まるまでの間、一時的に中の人である狩場宅郎が中継ぎを行います。

 

引き続きよろしくお願いいたします。

 

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