古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

最期

野見宿祢の自伝 12

 

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サホビメさまは後ろを振り向き、屋敷の中に入ろうとされていた.

 

陛下は慌てて叫ぶ

「待て!サホビメ!これを見ろ!お前との固い絆を誓って結んだ衣の紐だ!これをお前以外の、誰がほどくというのだ!!」

 

しかしサホビメさまは陛下に背を向けたまま、静かに話された。

丹波に居りますミチノウシの4人の娘は、心は清く陛下に忠実な娘です。この娘たちにほどいてもらえばいいでしょう」

 

そういうと、サホビメさまは屋敷の中に入ってしまわれた。

 

「待て!待ってくれ、サホビメ!!」

陛下はサホビメを追っていこうとされる。

 

・・・これはいけない、もう限界だ・・・

そう感じたわたしは、意を決して陛下の前に躍り出た。サホビメさまを追おうとされる陛下の前に仁王立ちになり、陛下の行こうとされる道をふさいだのだ。

 

「ノミ、なにをする!そこをどけ!!」

陛下が仰せになる。しかし陛下のご命令と言えどこれに従うわけにはいかない。

 

「いいえ!どきませぬ!!力づくでも陛下をこれ以上お通しすることはできませぬ!陛下はわたしの怪力はご存じですよね!

 

・・・陛下、よくお考え下さいまし!陛下がサホビメさまをお慕いするあまり、これ以上前に出ては、敵兵の格好の的になってしまいます!アマテラス大御神の御子たる陛下が、名も知れぬ一兵卒の矢に当たって死んだとあっては、後世の笑い草として永遠に語られることでしょう!!

いやそれよりなにより、日本の民のことをお忘れですか!!陛下の御身はご自分だけのものではなく、日本のすべての民のためのものでもあるのです!ここで陛下が倒れて天下が敵に渡ってしまっては、人心は朝廷を離れて争いは起こり、天下が乱れてしまうでしょう!

 

・・・陛下!どうしてもこれ以上先に行くといわれるのならば、お腰に差したその剣で、わたしを斬ってからお進みくださいまし!!」

 

こう言うと、わたしは目を閉じた・・・わたしはもう覚悟を決めていた。わたし

の命もこれまでか・・・

 

・・・しかし、わたしの首が斬り落とされることはなかった・・・

 

・・・陛下は後ろを向くと、泣きながら震える声で仰せになったのだ・・・

「ノミ・・・すまない・・・そなたの言うとおりだ・・・

・・・これから総攻撃に移る!・・・ノミ、鏑矢(かぶらや)を射ってくれ・・・」

 

「は、陛下!」

 

わたしは鏑矢をつがえると、空に向かって放った。

 

びゅわ~~ん~~

 

鏑矢は音を立てながら飛んでいく。攻撃開始の合図である。

鏑矢を合図に一斉に矢が放たれ、歩兵が総攻撃をかけた。

 

サホビコの守りは固かった。敵兵もよく戦った。しかし、朝廷の正規軍たる皇軍の敵ではなかった。

稲束を積み上げた砦が崩されるまで、そう時間はかからなかった。

 

稲束の砦は矢の攻撃を防ぐには好都合だが、いざ踏み込まれて火をつけられると、いとも簡単に燃え上がってしまう。

サホビコの屋敷は紅蓮の炎に包まれた。

 

焼け落ちた屋敷の後からは、手を取り合うようにして死んでいるサホビコとサホビメの遺体が見つかったのであった。

 

 

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野見宿祢の自伝 目次

 

 

☆日本書記での流れ

 

サホビコの反乱の物語は、日本書紀では少し違った流れになっています。

 

日本書紀ではホムチワケはすでに生まれており、サホビメは幼いホムチワケを抱いてサホビコの屋敷に入ります。そして屋敷に積み上げられた稲城に火がつけられると、サホビメは出てきてホムチワケを引き渡し

「自分と御子が屋敷に入ることにより兄の罪が許されることを期待したのですが、それはかなわぬようです」

と言うと、再びサホビコの屋敷に入り、焼死します。

 

そこにはサホビメに執着する天皇の姿はなく、逆に冷静に反逆者を制圧する君主としての威厳さえ感じます。

ここにも古事記と日本書記の性格の違いが現れているような気がします。

 

 

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