ヤマトタケルの自伝 10
イズモタケルの屋敷に滞在して数日。イズモタケルはわたしをすっかり信用し、わたしは偽りの友情関係を築き上げていた。
そんな、ある日のことである。わたしとイズモタケルは、斐伊川で連れ立って水浴びをしていた。
そして水から上がり、服を着て、イズモタケルが自分の剣を腰に差そうとしたとき、わたしは言った。
「イズモタケルさん、立派な大刀をお持ちなんですね!」
「おう、これか!この斐伊川では昔から製鉄が盛んでな、良質な砂鉄がここでは取れるんだ。その鉄を鍛えて作った極上の大刀なんだ!
これがあれば、大和の朝廷なんざ、敵じゃないさ!ははは!!
・・・おう、オウス!そういうお前も、なかなか立派な大刀を持ってるじゃないか!!」
「いえ、わたしの剣なんか、イズモタケルさんの大刀にくらべたら・・・わたしもイズモタケルさんのような大刀、もってみたいなあ・・
そうだ、イズモタケルさん、ちょっと、互いの大刀を、交換してみませんか?」
「おう!! いいともさ!」
イズモタケルはすっかりわたしを信用しきっていた。何の疑いもなく自分の大刀を差し出す。わたしは自分の大刀をイズモタケルに渡した。
わたしはイズモタケルの太刀を受け取る。斐伊川の鋼で鍛えた、ずっしりと重い刀だった。
わたしは受け取った刀を抜くと
「さあ、いくぞ!」
と、イズモタケルに向かって刀を構えた。
「・・・お、おい、どうした・・
オウス、気でも違ったか・・・?!」
イズモタケルの顔からたちまちのうちに血の気が引いた。
しかしわたしは構わず、イズモタケルに斬りつけた。イズモタケルの、その自分の刀で!!
イズモタケルは慌てて刀を抜こうとした・・・しかし、抜けない!そりゃそうだ、わたしはあらかじめ自分の刀を木刀とすり替えておいて、それをイズモタケルに渡したのだ。抜けるわけがない!
まごまごしているイズモタケルに・・・
わたしは正面から袈裟懸けに斬りつけた。イズモタケルは一瞬で絶命してしまった。
イズモタケルよ その太刀は
葛(カズラ)の飾り きらびやか
だがその剣は 空蝉さ
ああ面白い ああ愉快
わたしは歌を詠むと、イズモタケルの死体を討ち捨てたまま、大和への帰路に就いたのだった。
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☆やり方が汚い・・・
とはいえ、古事記・日本神話には、このようなだまし討ちで勝利する話は随所に出てきます。
古代人の正義感は、現代のわれわれとは違ったところにあったのでしょうか・・・
☆日本書紀には
ヤマトタケルのイズモタケル討伐の話は掲載されていません。
ただ、似たような話が崇神天皇の項目に載っています。
出雲振根(いずものふるね/第11代出雲国造といわれる)とその弟の飯入根(いいいりね)の兄弟の間に争いが起きました。
一旦は収まったのですが、このことに根を持った兄は数年後、刀を木刀に取り換えて弟を止屋淵(やむやのふち)まで水浴びに誘い出しました。水から上がったところで弟の刀で斬りつけ、慌てた弟は兄の木刀で応戦して殺されました。
朝廷はキビツヒコとタケヌナカワを派遣して出雲振根を討伐しましたが、このことが原因となってしばらく出雲大社の祭祀が中断されたということです。
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