山幸彦の自伝 10
わたしは籠舟に乗って、海の底と思われるところにたどり着いた。そこにはシオツチが言った通り、魚のうろこのように立ち並ぶ宮殿があった。門の横には井戸があり、井戸の側には大きな桂の木が茂っていた。
わたしはシオツチの言う通り、桂の木に登って待つことにした。
すると、門から一人の女が出てきた。服装からして、どうやらこの屋敷に仕える侍女のようだ。
その侍女は美しい器を持っていた。井戸に水を汲みに来たようだ。
侍女はつるべを落とし、くみ上げた水を器に遷す。
と、その時だった。侍女は器に映る、私の影に気が付いた。そして木の上を見上げる。木の上にいた私と目が合った。
侍女は驚いたようだ・・・まあ、見知らぬ男が木の上に上っているのだから当然だろう。
わたしは木から降りて、その侍女に言った
「驚かせてすみません、怪しいものではありません。申し訳ないが、水を飲ませてもらえないだろうか」
侍女は驚いてはいるが、その表情は怯えたものではなかった。どうやらわたしの素性は知らずとも、高貴なものであることは理解したらしい。
侍女は器に入った水を差しだした。
わたしは器を受け取った。そして首にかけていた勾玉を一つとると、それを口に含み、器の中に吐き出した。
わたしの霊力がこもったその勾玉は、器の底に張り付いて取れないはずだ。
そうしてわたしは勾玉が張り付いた器を侍女に返した。水は結局一口も飲まなかった。
侍女は不思議な顔して宮殿の中に戻っていった。
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