山幸彦の自伝 14
海神は赤鯛の喉から小さなものを取り出し、それをきれいな水で洗い清めてからわたしに見せた。
針だ!・・・確かに、あの時なくした釣り針だ!!
「ホオリさまがなくしたのは、この針ですか?」
「は、はい、そうです!確かにこの針です!!」
わたしは喜んでその針を受け取ろうとした。
すると、海神が言った
「お待ちください、この針を兄君にお返しするとき『オボチ、ススチ、マヂチ、ウルチ』と唱えて、後ろ手にお渡しください」
「え・・・なんですか?それは・・・」
「なに、ちょっとしたおまじないですよ」
わたしが腑に落ちない顔をしていると、海神は続けて言った
「お帰りになった後、兄君が高いところに田を開いたならば、ホオリ様は低いところに田をおつくりくださいませ。逆に兄君が低いところに田を作れば、ホオリ様は高いところに田を作るのですよ」
「すると、どうなるのですか」
「わたくしは水のことなら自由自在に操ることができるのです。兄君の田では収穫はできず、必ず3年のうちに兄君は窮乏するようになります」
そこまで言うと、海神はわたしにふたつの珠を手渡していった。
「この玉は塩満珠(しおみつたま)といい、またこちらのほうは塩乾珠(しおふるたま)といいます。
兄君がホオリ様をねたんで攻めてきたときは、塩満珠を取り出してください。そうすれば大波が押し寄せてきて、兄君は溺れるでしょう。兄君が許しを乞うたならば塩乾珠を取り出して助けてあげてください」
こうして、わたしは地上に帰ることになった。
前<<< 針があった! - 古事記の話 (hatenablog.com)
次>>> 日本に帰る - 古事記の話 (hatenablog.com)
☆オボチ、ススチ、マヂチ、ウルチ
古事記原文の表記では「淤煩釣、須々釣、貧釣、宇流釣」となります。
オボチとはぼんやりした針、
ススチとは「すさぶ針」の意味で怒り狂う針、
マヂチ(貧釣)は字そのままで貧乏になる針、
ウルチは「おろかな針」の意味で役立たずの愚かな針
う~ん、なんとも恐ろしい呪文・・
さらに兄の田を凶作に陥れ、津波に巻き込ませ・・・
もともとの原因を作ったのは弟のほうなのに、そこまでやるか・・・
≪リンク≫
小説古事記
古事記ゆかりの地を訪ねて
カリバ旅行記
温泉の話
駅弁の話
鉄道唱歌の話