山幸彦の自伝 21
わたしが頭上に塩満珠を掲げると、海から大きな波が押し寄せ、兄ホデリの軍勢を押し流していく。
わたしの従者らは、屋根の上からあっけにとられてこの光景を見ていた。ホデリの兵士たちは次々と波にのまれていく。
「うわああっ」
「助けてくれ~」
兵士たちの叫び声が飛び交う。そして、兄、ホデリも・・・
ホデリが一目散に高台目指して走って逃げているのが見えた。しかし、たちまちのうちに波は追いつき、ホデリも飲み込んでいく・・・
「わあーっ!助けてくれ!」
ホオリの絶叫が、ここまで聞こえてきた。よっぽど恐怖だったのだろう・・・
もう、ここらで潮時だろう・・・そう考えたわたしは、潮乾珠(シオフルタマ)を頭上に掲げた。
潮乾珠はぴかっとまばゆい光を放った・・・
ず・・・ず・・・ず・・・
今度は瞬く間に波が引いていく。後にはずぶぬれになった兵士が残されていた・・・そして兄ホデリの姿も・・・
兵士たちは弓矢を地に置き、わたしの宮のほうを向き直ると、頭を下げてひざまずいた。降伏の合図である・・・
わたしは屋根から降り、うなだれている兵士の間を抜けて、歩いて行った・・・
わたしが歩く先には、びしょぬれのまま、茫然として立っているホデリがいた・・・
わたしがホデリの前に立つと、彼も観念したのだろう・・・ガクッと腰を落とし、膝まづいてうなだれた・・・。
わたしはホデリに語り掛けた。
「兄上・・・頭をあげてください。さあ、帰りましょう・・・高千穂宮へ・・・」
わたしはもはや、ホデリには何の恨みも、負の感情も持っていなかった。
しかし、ホデリは何も言わずに立ち上がったかと思うと、くるりと向こうを振り向いた。次の瞬間、脱兎のごとく駆け出していた。
「あっ!兄上!・・・どこに行かれるのですか?・・・もう、いいんですよ!
これからは一緒に協力して・・・」
しかし、その声が聞こえたのか聞こえないのか、そのままホデリは去っていった。
兄ホデリの行方は、今もわからない。
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☆隼人の舞
拙ブログでは「兄ホデリの行方は、今もわからない。」と結びましたが、
古事記においては、ホデリが「わたくしは今後、あなたを夜昼問わずお護りしてお仕えいたします」と言い、その後ホデリの子孫が宮廷に出仕するときはその時のおぼれた様子を舞うようになった、と記述してあります。
ホデリが溺れるさまを表現したという「隼人の舞」、宮中で儀式の際に演じられてきたそうですが、中世に途絶えてその詳細は分からなくなっています。
当時のものがどこまで再現されているか不明ですが、京都府京田辺市の月読神社や鹿児島の鹿児島神宮などで隼人の舞を復活させて、祭礼などで奉納されています。
☆潮嶽神社
ホオリに追われたホデリがたどり着き、落ち着いた地が宮崎県日南市の潮嶽神社と言われています。
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