山幸彦の自伝 6
わたしは兄ホデリの釣り針をなくしてしまった。そして、ホデリの怒りようは尋常ではなかった・・・
「な、なに!お前、あの針をなくしただと!!あれほど言っておいたではないか!!それを・・・それを・・・何てことしてくれたんだ!!!」
もともと気性の荒い兄ではあったが、それにしてもここまで真っ赤になって怒った姿は見たことがない。
「お前、戻って針を探してもってこい!!今すぐにだ!」
ええ・・・海まで行って針を探して来いって・・・そんなの無理だ・・・
わたしは腰にさしていた十拳剣(とつかのつるぎ)を鋳つぶして、500本の釣り針を作り、ホデリに差し出した。しかしホデリは
「そんなものいらん。元の針を返せ」
と言って受け取らない。
わたしはさらに剣を鋳つぶして、1000本の針を作ってホデリに差し出した。しかし
「数の問題ではない。あの針には長年使い続けて、わたしの魂がこもっているんだ。あの針をかえせ」
という。
もう、どうしようもない・・・
・・・わたしはとぼとぼと、さっきまで釣りをしていた海岸に戻ってきた・・・
そこにはどこまでも続く広い海原が広がっていた・・・ああ、こんな広い海の、どこをどう探せば、たった一本の小さな針を探し出せるというのだ・・・
波はいつまでも、ざざーと寄せては返していた。その波の音・・・普段なら心地よいはずの波の音も、私は絶望の音楽にしか聞こえなかった・・・
わたしはどうすればいいのか・・・浜に座って涙を流していた・・・
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