山幸彦の自伝 11
侍女は器を持って宮殿の中に入っていった。
わたしは井戸のそばに立って待っていた。
ほどなく、きれいな若い女性が出てきた・・・この宮殿の姫様だろうか・・・
その娘と目が合った・・・
娘が言った
「侍女が勾玉が張り付いた器を持ってきましたが・・・不思議に思って様子を見に来ましたが・・・あなた様だったのですね・・・」
わたしはその娘の目を見返す・・・なんだ、この胸の高まりは・・・不思議な心地だ・・・
わたしは
「ああ、そうだが・・・そなたは?」
と尋ねた。
娘は「わたくしはワタツミの娘、トヨタマヒメと申します・・・どうぞ、こちらへ」
トヨタマヒメは私の手をそっと取り、宮殿の中に連れていく。
そうか、海神ワタツミの娘なのか・・・胸の鼓動が高まる。トヨタマヒメは下を向いて顔を赤らめている・・・そう、既にこの時、わたしとトヨタマヒメは恋に落ちていたのだった・・・
そして通されたのは、海神・・・宮殿の主、海神ワタツミの前だった。
海神はわたしを見るなり、大喜びで言った。
「おお、あなた様は、天の御子、ホオリ様ですね!よくぞこの海の宮殿にいらっしゃいました!!」
海神の歓迎ぶりは大変なものだった。アシカの皮を何枚もしき、さらにその上に衣を幾重にも重ねて私をそこに座らせた。わたしの目の前には素晴らしい御馳走が並べられた。
そして海神は、娘のトヨタマヒメをわたしの后にしたいと申し出たのである。わたしに異存があろうはずがなかった。勿論、トヨタマヒメも・・・
わたしはトヨタマヒメと結婚し、海神の宮殿でその後過ごしたのだった・・・
・・・そして、早3年の月日が流れた。
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☆海神ワタツミ
古事記にはイザナギとイザナミの神生みの段において、海の神オオワタツミ(大綿津見神)を生んでいます。
一方でイザナギが黄泉の国から帰ってきたときの禊において、ソコツワタツミ(底津綿津見神)・ナカツワタツミ(中津綿津見神)・ウワツワタツミ(上津綿津見神)の綿津見三神を生んでいます。
これらのワタツミは別神であるとも、同一神であるとも言います。
金印の発見で知られる福岡市東区志賀島にある志賀海神社が、海の神をまつる神社の総本社とされています。
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