山幸彦の自伝 8
シオツチは私の話を聞くと「良い知恵をお授けいたしましょう」というと、海岸わきの竹やぶに入っていった。
・・・一体、何をしてくれるのだろう・・・
不安な気持ちで待っていると、シオツチは竹を何本か切って戻ってきた。シオツチは竹を器用に裂いては、それを編み上げていく。
「あの・・・シオツチさま・・・一体、何を作っているのですか?」
わたしは不安でいたたまれなくなり、シオツチに尋ねてみた。
「ホオリ様が乗る舟を作っているのですよ」
「え・・・舟って・・・まさか・・・」
まさか、竹を編んだ船に乗って海の中に針を探しに行けというのか・・・そんな無茶な・・・
シオツチはそんなわたしの気持ちを知ってか知らずか
「まあ、わたくしにお任せください。悪いようにはしませんから」
と言ったかと思うと、器用に手を動かし続け、たちまちのうちに目が詰まった竹かごが編み上げられた。
シオツチは
「さあ、この舟にお乗りくださいませ」
という。
「・・・それで、船に乗った後、どうすればいいのでしょうか・・・」
「ホオリさまがお乗りになった後、わたしがこの舟を海に押し流します。しばらく波に任せてそのまま進んでいけばいいのです。
そこにはホオリ様にとって最も良い道が開けています。その道の先には、あたかも魚のうろこのように立ち並んだ宮殿が見えてくるでしょう。そこがワタツミの神が鎮座される宮殿です。」
「・・・ワタツミの神・・・海の神ですね」
「さようでございます。そのワタツミの御門の横に井戸があり、井戸の側には桂の木が茂っています。その木の上でお待ちください。
さすればワタツミの娘が出てきて、良きように図ってもらえるでしょう」
わたしはシオツチを信頼して言うとおりにすることにした。どうせこのまま手をこまねいていても、針は戻ってこないし兄の怒りも解けないだろう。
「ホオリさま、さあ、押しますよ!お気をつけて」
「シオツチさま、ありがとう。お世話になりました」
こうしてわたしは竹を編んだ籠舟に乗って、大海原に流れ出していった。
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