古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

別れ

山幸彦の自伝 26

 

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トヨタマヒメが赤子を抱いて立っていた。

 

トヨタマ、生まれたのか」

トヨタマヒメの正体を見てしまったわたしは、努めて平静を装っていった。

 

「ホオリさま・・・天の御子、あなたの子です・・・」

トヨタマヒメはそっと赤子を差し出した。わたしはその子を受け取る。

 

トヨタマ、よくやったぞ・・・」

そうだ、この子はわたしとトヨタマの子なんだ・・・そしてトヨタマヒメはわたしの后だ・・・その正体が何であろうとも・・・

 

しかし、トヨタマヒメの次の言葉は、思いもよらぬものだった・・・

 

「ホオリさま、お別れです」

「な・・・何・・・どういうことだ・・・」

 

「あなたはわたくしの正体を見てしまいました・・・わたくしはホオリさまが見た通り、ワニなのです・・・

 

・・・わたくしはこれからも、海の道を通ってホオリさまに会いに来たいと思っていました・・・しかし、正体を知られたからには、それもかなわぬ夢となりました・・・

 

・・・ホオリさま、お元気で」

 

そういうと、トヨタマヒメはわたしに背を向け、波打ち際に向かって歩き出した。

 

「ま、待て!お前の正体が何だっていうんだ!お前はわたしの后じゃないか!行くな!!・・・」

 

慌ててトヨタマヒメを追いかけようとした。

しかし、赤子を抱いていたわたしは思うように動けない。

 

その間にもトヨタマヒメは海の中に入っていき・・・その姿をさっき見たワニに変え・・・尾を大きく振って・・・

 

・・・海の中に消えて行ってしまった・・・・

 

トヨタマ・・・愛しているよ・・・お前が何だろうと・・・」

 

わたしは、トヨタマヒメが消えていった海に向かって、一言そうつぶやいたのだった。

  

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山幸彦の自伝

 


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