山幸彦の自伝 15
わたしは海神の宮殿から地上の日本に戻ることになった。
海神は今度はワニを集めると
「天の御子が地上にお戻りになることになった。お前ら、地上まで何日でお送りすることができるか」
と問うた。
すると、集まったワニの中で一尋ワニ(ひとひろわに)が
「わたくしめであれば一日でお送りすることができます」と答えた。
「ならばそなたが天の御子お送りせよ。海中を渡るときに怖い思いをさせたりしないように、気を付けるんだぞ」
こうしてわたしはその一尋ワニに乗って地上の日本に帰ることになった。
「ワタツミさま、大変お世話になりました。
トヨタマヒメ、いずれ迎えに来る。その日まで、待っててくれよ」
わたしは海神とトヨタマヒメに別れを告げると、一尋ワニの背にまたがった。
一尋ワニは海中を泳ぎ、そして約束通り、一日で私を地上の日本、日向まで送り届けてくれたのだった。
「ありがとう、助かったよ」
わたしは一尋ワニに礼をいうと、腰にさしていた短剣をワニの首に括り付けてやった。また「サイモチの神」という名も与えてやった。
「気を付けてね、ワタツミさまによろしく!」
ワニは嬉しそうに大きく尾を振ると、海中に戻っていった。
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☆サイモチの神
ワニというのは爬虫類の鰐ではなく、サメのことを指しています。
「尋」というのは人が両手を広げた長さのことで、「一尋」は約140~160cmくらいになります。
サイモチのサイとは鋭利な刃物のこと。ワニ(サメ)の鋭い歯を刃物に見立ててワニを神格化したものだそうです。
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