山幸彦の自伝 7
わたしは兄ホデリの針をなくし、海岸で途方に暮れていた。こんな広い海原の、どこを探せば小さな針を見つけて持って帰れるというのだ・・・
・・・どれだけ時間がたっただろうか・・・すでに日が暮れようとしていた。
「もし・・・失礼ですが、ホオリさまではございませんか」
ふと、背後で声がした。その声にわたしは振り向いた。そこには年を取った、一人の神が立っていた。
「・・・あ、やはり、ホオリさまでございますね」
「はい、そうですが・・・あなた様は?・・・」
「はい、わたくしはシオツチと申します。」
シオツチというと・・・潮の満ち引きをつかさどる神だ。
シオツチは言葉を続けて言った。
「それにしても、天の御子とあろうものがこんなところで、従者もつけずに一人でいるなんて・・・何か深いわけがありそうですね。いったいどうなさったのですか?」
「はい・・・じつは・・・」
わたしはこの老神を信頼して、一部始終を話して聞かせた。
「なるほど、そういうことでございましたか・・・兄君のホデリさまは、あの針を大事にされてましたからね・・・お怒りになるのもごもっともでございます。
しかし、とはいえ、ホオリさまもお困りでございましょう。どれ、わたくしが、ホオリさまのために、良い知恵をお授けいたしましょう」
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☆シオツチ
古事記ではシオツチ(塩椎神)の登場はこの話だけです。
日本書紀ではニニギが天降の際に出会う話が一書(あるふみ)に収録されています。またホオリの孫、後に神武天皇となるイワレビコがシオツチに「東によい国があります」と言われたのが神武東征のきっかけになっています。
シオツチは日向からは遠く離れた宮城県の塩釜神社に祀られています。
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