古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ウガヤフキアエズとタマヨリビメと子供たち

トヨタマビメが産んだホオリの子は、ウガヤフキアエズと命名された。 ホオリはトヨタマビメの正体を知ってしまった後も愛する心は変わらなかった。そして、正体を見られたことを恥じて海に帰ったトヨタマビメも、夫や子を愛する心は変わらなかった。 トヨタ…

トヨタマビメ、海に帰る

そこには赤子を抱いたトヨタマビメが立っていた。 「ホオリさま・・・男の子が産まれました。あなたの子、天の御子です」 というと、そっと抱いた赤子をホオリのほうに差し出した。ホオリは赤子を受け取ると、言いようのないうれしさで涙があふれてきた。あ…

わに女房

ホオリはそっと産屋に近づいた。 ホオリはまだ葺き終えていない屋根の隙間から産屋の中をのぞく。そこで見たものは・・・ 大きなワニだった! 巨大なワニがのたうち回り、子を産もうとしている! 想像もしていなかったその光景にホオリは血の気が引き、慌て…

見るなと言われて

にわかにトヨタマヒメに陣痛が襲ってきた。 産屋はまだ完成していない。だが、もう生まれる!・・・ トヨタマヒメは、まだ屋根を葺き終えていない産屋の中に入った。その間際、ホオリに言った。 「子供を産むとき、もともと本来の姿に戻って産むのが昔からの…

トヨタマヒメ、みごもる

こうしてホオリは高千穂の宮に戻り、再び日本の国を統治するようになっていた。そんなある日のことだった。 高千穂の宮に一人の女神が訪ねてきた。 ホオリは女神を見るなり、喜びと驚きが混じったような声を上げた。 「おお!トヨタマ!」 そう、訪ねてきた…

ホデリ、降参する

屋根の上に上がったホオリと従者たち、ホデリの軍勢から矢は雨あられと飛んでくる。急ごしらえの戸板の楯では防ぎきれない。 その時だった。ホオリは海神から授かったシオミツダマを取り出し、立ち上がると、頭上高く持ち上げた。 シオミツダマはパッと一瞬…

ホデリが攻めてくる

ホデリの心は荒んでいた。 ホオリの奴、釣り針を返す時に呪いをかけやがったな・・・ ならばこっちは実力で滅ぼすまでだ! ホデリは軍勢を整え、自ら先頭に立ってホオリの屋敷に攻めてきた。 ホデリは貧しくなったとはいっても、まだ高千穂の宮の大軍を手中…

田を開けば

その頃、新田の開発は統治者にとって重要な関心事だった。田畑を切り開き、食糧を増産することは、すなわち人口の増加につながりそれだけ国力は増大する。 その年、兄ホデリは高台を切り開いて水田を造っていた。それを見たホオリは低地に水田を切り開いた。…

ホオリ、帰る

山幸彦ことホオリは高千穂の宮に帰っていった。 「お兄様、ただいま戻りました」 「ん?なんだ、ホオリ、お前3年もの間どこに行ってたんだ?お前のいない間、おれは日本の政務を一人で見てきたんだぞ」 「すいません、お兄様。しかしこの通り、釣り針は探し…

ワニに乗って帰る

続けて海神は海に住むワニを集めた。海神はワニに向かって言う。 「いま、天の御子が日本に帰ることになった。そこで日本まで送り届けてほしいのだが、一番早く日本に戻れる者はだれか」 すると、ヒトヒロワニが名乗りを上げた。 「私なら一日で送り届けるこ…

海神のアドバイス

海神はホオリに向かって言う。 「兄君にこの針をお返しするときは、後ろ手にしてお渡ししてください。その時、オボチ・ススチ・マヂチ・ウルチ、と唱えるのですよ」 「え?オボチ・ススチ・マヂチ・ウルチ・・・ですか?何ですか、それは」 「なに、ちょっと…

針があった!

「なるほど、天の御子が訳もなしにこんな海の底までくるわけないと思っておりましたが、そういうことでございましたか」 そこで海神オオワダツミは、早速海中の魚を呼び集めた。海神の呼びかけに、大小さまざまな数多くの魚が集まってきた。 海神は魚たちに…

ホオリ、ため息をつく

ホオリが海神の宮殿に滞在し、3年の月日が経った。 ホオリはトヨタマビメを嫁にし、何一つ不満はなく、海の宮殿で暮らしていた。 しかしある時、ふっと思い出したことがあった。自分は何のためにここに来たのか・・・なくした兄神の釣り針を探すためではなか…

トヨタマビメと海神オオワタツミに出会う

侍女はトヨタマビメのもとに行き、勾玉の付いたままの器を差し出した。 トヨタマビメは侍女に向かって言う 「ご苦労でした・・・あら、何?この勾玉?」 「それが・・・井戸のそばの木に不思議な神様が登っていて、水を下さいというんです。なので器を差し出…

勾玉が器に張り付く

侍女は井戸から水を汲んだ。その時だった。 井戸の中から光が出ているのに気づいた。侍女は井戸をのぞき込んで見ると、そこには木に登ったホオリの顔が映っていた。 侍女は木の上を見上げた。そして木の上にいるホオリを見つけた。 ホオリは木から降りて来た…

海の底の宮殿

ホオリが乗った小舟は、海原をどこまでも進んでいった。 ホオリはただ茫然と、どこまでも広がる海原を見ていた。 そのうち、疲れが出てきたのだろう。ホオリは眠気を覚え、うとうとしてきた。 その間に、舟は少しずつ海中に沈み、海の中を下のほうに、海底に…

ホオリ、海に出る

ホオリは日向の海岸で、岩場に腰掛け、途方に暮れていた。 ・・・確かに自分で蒔いた種、悪いのは自分だが、それにしてもこの広い海から一本の針を探すなんて・・・ どう考えても無理である。ホオリにはもはや、泣く力も残っていなかった。 するとそこに、背…

海幸ホデリ、怒る

山の幸彦こと弟のホオリは、重い足を引きずりながら高千穂の宮に帰っていった。 高千穂の宮につくと、そこには海の幸彦こと兄のホデリが待っていた。その体は擦り傷だらけ、顔は怒っている様子が一目でわかる。 「獲物は一匹も獲れず、足を滑らせて崖から落…

山幸ホオリ、釣り針を無くす

さて、道具を交換してもらった山の幸彦こと弟のホオリは、気分良くウキウキしながら海に出向いていった。 ホオリは岩場に腰掛けて、釣り糸を垂らす。さあ、なにが釣れるだろうか。 ・・・ なにも釣れるわけがない。ホオリは海のことに関しては何も知らない素…

海幸彦と山幸彦

炎の中から生まれた三つ子、それぞれホデリ・ホスセリ・ホオリと命名された。 次男のホスセリは残念ながら早世してしまったが、長男ホデリと三男ホオリはすくすくと成長していった。 そしてニニギの亡き後、高千穂の宮ではホデリとホオリが共同で日本の国を…

炎の中で出産

なんだかんだあったが、ニニギとコノハナサクヤビメはその夜を共にした。 そのころ、日本各地の豪族の間では、天の御子が日向に降りてきたのを聞き、先を争ってニニギのもとに挨拶に来るようになっていた。そのため、ニニギは夜寝る暇もないほどの多忙さで、…

イワナガヒメ、帰される

さて翌日。コノハナサクヤビメとイワナガヒメの二人がニニギの宮殿にやってきた。 二人はそろって宮中の一室に案内され、そこでニニギを待つことになった。二人は三つ指ついて頭を下げ、ニニギが入ってくるのを待った。 そこへニニギが入って来た。二人の緊…

コノハナサクヤビメと出会う

ある日、ニニギは宮殿を出て、笠沙の岬を見回っていた。するとそこに、とても美しい少女を見つけた。 その少女を見た瞬間、ニニギは何か神秘的なものを感じた・・・そう、あたかも前世から結ばれる運命にあったような・・・ ・・・要するに「一目ぼれ」であ…

サルタビコ、故郷へ帰る

こうしてニニギは日向の地、高千穂の宮において日本の統治者として君臨することになった。 さて、ニニギが降臨する際、案内役として一行を導いてきたサルタヒコ、高千穂の宮にニニギが落ち着いた後も、しばらくはニニギのそばに仕えていた。 そんなある日、…

高千穂に降臨する

さて、こうして天降の準備は万端整った。 案内役の猿田彦を先導に、ニニギが続き、そのあとを伴の神々が従っていく。 ニニギの一行は、高天原を離れ、天の浮橋をつたって日本に降りていく。 アマテラスと造化三神、八百万の神々も見送りに出て、小さくかすん…

サルタビコ、案内役となる

こうして、ニニギを中心とした一行が高天原から下ろうとしていた時だった。 地上の日本から、上は高天原を、下は日本を明るく照らしながら昇ってくる神がいた。 ニニギを中心とする一行は身構えた。 オオクニヌシはコトシロヌシを先頭に日本の神々は天に従う…