屋根の上に上がったホオリと従者たち、ホデリの軍勢から矢は雨あられと飛んでくる。急ごしらえの戸板の楯では防ぎきれない。
その時だった。ホオリは海神から授かったシオミツダマを取り出し、立ち上がると、頭上高く持ち上げた。
シオミツダマはパッと一瞬、まばゆい光を放った。
その光にホオリの軍勢は目がくらみ一瞬ひるんだが、すぐに再び矢をつがえ放とうとする。その時だった。
ず、ず、ず・・・海のほうから不気味な音が響いてくる。
「な、なんだ、あれは!?」
そう、海のほうから恐ろしい勢いで潮が満ちてきたのである。満ちてきた潮はたちまちのうちにホデリの軍勢を押し流してしまった。
「たすけてくれー」
潮に流され、溺れたホデリの軍勢の兵士たちは、口々に叫ぶ。先頭に立っていたホデリも潮に押し流され、助けを乞うていた。
頃合いを見て、ホオリは今度はシオヒルタマを頭上に掲げた。
シオヒルタマも一瞬まばゆい光を放ったと思うと、今度は満ちてきた潮がさっと引いてしまったのである。
助かった兵士はみな武器を捨て、ホオリの屋敷の前に来ると、ひざまずき頭を下げた。降伏し、今後はホオリに恭順する態度をみせたのである。
もはや、ホデリに勝ち目はなかった。
ホオリは屋根から降りてきた。
頭を下げている兵士の間を通り、びしょ濡れのまま呆然と立っているホデリのそばまで歩いていく。
ホデリは観念してホオリの前に膝まづき、頭を下げた。
ホデリの子孫は隼人の阿多君となり、今に至るまでその溺れたときのしぐさを舞として伝え、宮中に仕えるときは必ずその舞を披露するという。
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☆隼人の舞
ホデリが溺れるさまを表現したという隼人の舞、宮中で儀式の際に演じられてきたそうですが、中世に途絶えてその詳細は分からなくなっています。
当時のものがどこまで再現されているか不明ですが、京都府京田辺市の月読神社や鹿児島の鹿児島神宮などで隼人の舞を復活させて、祭礼などで奉納されています。
☆潮嶽神社
ホオリに追われたホデリがたどり着き、落ち着いた地が宮崎県日南市の潮嶽神社(うしおだけじんじゃ)だと伝えられています。