さて翌日。コノハナサクヤビメとイワナガヒメの二人がニニギの宮殿にやってきた。
二人はそろって宮中の一室に案内され、そこでニニギを待つことになった。二人は三つ指ついて頭を下げ、ニニギが入ってくるのを待った。
そこへニニギが入って来た。二人の緊張はピークに達していた。
ニニギはにっこりほほえみながら
「よく来てくれたね、そう緊張せずともよい。コノハナサクヤビメ、おもてを上げなさい。来てくれたんだね、ありがとう」
呼ばれたコノハナサクヤビメは、しずしずと顔を上げ
「ニニギさま、これからお世話になります。よろしくお願いいたします」
と言った。そのかわいらしい姿に、ニニギは改めて胸を打たれた思いだった。
ニニギはイワナガヒメにも言った
「イワナガヒメ、そなたもおもてを上げるがよい」
美しいコノハナサクヤビメの姉だから、彼女もどんなにかきれいなひとなんだろう・・・ニニギは思いを弾ませていた。ところが・・・
顔を上げたイワナガヒメ、なんとも醜い顔だった。顔だけではない、体もごつごつと筋肉が張って、男かと見間違うような容姿である。
ニニギは凍り付いた。
「ニニギさま、コノハナサクヤヒメの姉、イワナガヒメでございます。ふつつかものですが、よろしくおねがいいたします」
・・・しかしイワナガヒメの声は、ニニギの耳には入っていなかった。
しばしの沈黙の後、ニニギは言った
「イワナガヒメ、そなたは帰ってよいぞ」
「えっ!?ニニギさま!それはどういう意味でございますか?」
ニニギは「鏡を見ろ!」とでもいいたかったが、さすがにそれは言わず
「ご苦労だった。わたしはコノハナサクヤビメを召し出したのであって、そなたを召し出したのではないからな」
と言って、コノハナサクヤビメだけ連れて部屋を出て行った。
・・・まあ、さっきまでは、コノハナサクヤビメの姉だからどんなにきれいな娘だろう、と期待に胸を含ませていたのに・・・勝手なものである。
しかしこの男の身勝手が、子孫代々たたることになろうとは、その時ニニギは考えもしなかった。
イワナガヒメは仕方なく、侍女を従えて泣きながら帰っていった。
一刻後、ニニギの宮殿に使者がやってきた。コノハナサクヤビメとイワナガヒメの父、オオヤマツミからである。
使者はオオヤマツミからの言葉を伝えた。
「わたしは、天の御子の命が、何があろうとも岩のように長く続くようにとの願いを込めてイワナガヒメを送り出しました。また、子孫代々、木の花が華やかに咲くような繁栄を遂げるようにとの願いを込めてコノハナサクヤビメを送り出しました。
しかし、コノハナサクヤビメだけをとどめてイワナガヒメはお帰しになられました。 なので天の御子の命は木の花のように短いものとなりますでしょうぞ」
こうして、天の御子は天つ神の子孫でありながら、現在に至るまで短い限られた寿命となったという。
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☆天皇の寿命
天皇は天つ神の子孫、といっても神話・伝説上のこと。
実際には生物学上のヒトとしての寿命がある訳で、その整合性を取るためにこの話が挿入されたといわれています。
☆銀鏡神社
この後、イワナガヒメは鏡を見ると、あたかも龍のような醜い自分の顔が映ってました。イワナガヒメは嘆き悲しみ鏡を投げました。鏡は龍房山の大木に引っかかり、辺りを白く照らしたそうです。