ホオリはそっと産屋に近づいた。
ホオリはまだ葺き終えていない屋根の隙間から産屋の中をのぞく。そこで見たものは・・・
大きなワニだった!
巨大なワニがのたうち回り、子を産もうとしている!
想像もしていなかったその光景にホオリは血の気が引き、慌ててその場を逃げ出した。
その気配に出産中のワニの姿のトヨタマヒメはきづいた。そして愛する夫にその姿を見られたことを悟ったのだった。
ホオリは海岸に生えている一本の木にもたれ高かったかと思うと、倒れるように座り込んだ。
ホオリの心臓は激しく波打っていた。いや、全速力で駆けたからだけではない。
今見た光景が脳裏から消えないのだ。
愛する妻はワニだった・・・でも、自分はトヨタマビメを愛してる・・・その姿が何だろうと・・・
そんな思いが駆け巡る中、そこに人の気配がした。
そこにいたのは、赤子を抱いたトヨタマビメだった。
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☆わに女房
つる女房ならぬわに女房・・・
ワニというのは何度か申し上げておりますが、爬虫類のクロコダイルやアリゲーターではなく、軟骨魚類のサメのことです。
ニニギはワニに小刀を与え神としての名を授けましたが、トヨタマヒメ自身ワニだったとは・・・とすると父親の海神も当然・・・
古代から海洋国家だった日本ですが、海の王者ワニに対する信仰心が感じられます。