ホオリが乗った小舟は、海原をどこまでも進んでいった。
ホオリはただ茫然と、どこまでも広がる海原を見ていた。
そのうち、疲れが出てきたのだろう。ホオリは眠気を覚え、うとうとしてきた。
その間に、舟は少しずつ海中に沈み、海の中を下のほうに、海底に向かって進んでいった。
どのくらい時が経ったのだろうか、ホオリが気付くと、舟は停まっていた。
・・・ここは、どこだろう・・・ホオリは辺りを見回す。
そこには日の光は届いていないようだった。かと言って暗いわけでもなく、まわりは柔らかな光に包まれている。
・・・ここは海中、海の底では・・・ホオリは直感した。
そしてホオリの目の前には、大きな宮殿が立っていた。そこから見える宮殿の屋根は数限りなく建っていて、まさにシオツチの言った通りあたかも魚のうろこのようだった。
ホオリは宮殿の中に入り、庭の井戸のそばに来た。シオツチが言った通り、井戸のそばには桂の木が生えていた。
ホオリは木の上に登った。
しばらくして、宮殿の中から一人の女性が出てきた。海神の娘、トヨタマヒメに仕える侍女で、井戸で水をくむために出てきたのだった。
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☆桂
桂の木はここの他にも、ワカヒコの屋敷に降りてきた雉のナキメがとまって啼いたりしています。
桂は日本や朝鮮半島、支那の各地に広く分布しています。香りがよく耐久性があるので、神話の時代から建材や木工品として広く利用されてきました。