なんだかんだあったが、ニニギとコノハナサクヤビメはその夜を共にした。
そのころ、日本各地の豪族の間では、天の御子が日向に降りてきたのを聞き、先を争ってニニギのもとに挨拶に来るようになっていた。そのため、ニニギは夜寝る暇もないほどの多忙さで、その後ニニギとコノハナサクヤビメが交わる機会は遠のいていた。
そして数か月たち、日本各地の豪族の訪問も一段落したころだった。
ニニギの部屋にコノハナサクヤビメが入ってきた。
「おう、コノハナサクヤか。すまんな、せっかく嫁に来てもらったというのに、急に忙しくなってしまって、ろくに相手もできておらんな。
だが、それも一段落したし、どうだ、今夜あたり酒でも飲みながら、ふたり水入らずで過ごさんか」
「いえ、ニニギさまは日本の支配者ですから、御多忙なのは承知しております。それより、今日はご報告があってまいりました」
「ん?・・・なんだ?改まって」
「はい、わたくしはニニギさまの御子を妊娠しております」
「え?おれの子?」
・・・ニニギは子供ができたという喜びの前に、まず感じたのは不信感だった。
「・・・お前、夜を共にしたのは一回だけだぞ・・・それで子供ができたのか?」
「はい、さようでございます」
「そんなばかな・・・一回で妊娠するわけがない!」
「しかし・・・」
「お前、それはこの土地の神の子だろう!生娘のふりして、俺のところに来る前、何やってたんだ!」
今までしおらしくしていたコノハナサクヤは、すっと立ち上がった。
「ニニギさま!あなた、そこまでおっしゃるのですか!」
ニニギはたじろいだ。いままでこんな鬼々として迫るコノハナサクヤなど、見たことなかったのだ。まあ、彼女でなくても、ここまで言われてキレない女はいないだろうが・・・
「ならば、おなかの子があなたの子であることを証明して見せましょう。もしこの子が土地の神の子であれば、無事に生まれてはこないでしょう。天の神の御子であれば、無事に生まれてくることでしょう。」
そういって、宮殿の一角に立っていた小屋にこもった。そして出口を土で塗り固めてでしまった。出ることも入ることもできない。
「おい!コノハナサクヤ!もういいから出てきてくれ!」
いまさらながらに事の重大さに気づいたニニギは、小屋の外から戸をたたいてよびかける。しかし、何の返事もない。
そのうち、メラメラ、パチパチという音が響き渡った。
コノハナサクヤビメが、内側から火を放ったのだ。
「コノハナサクヤ!もういい、やめろ!出てこい!」
しかし何の返事もない。
そばにいた従者に火を消すよう命じたが、時すでに遅く、板と草でできた小屋に火は瞬く間に広がり、猛火となって小屋を包んででいた。
「コノハナサクヤー!」
その時、小屋のほうから、ニニギは泣き声を耳にした。赤子の泣き声のようだ。
そして、小屋は完全に焼けちた。
まだ火がくすぶる小屋の跡には、コノハナサクヤビメが立っていた。三人の赤ん坊を抱いて・・・
「コノハナサクヤ!無事だったか!」
ニニギはコノハナサクヤビメに駆け寄る。
「ニニギさま・・・三つ子が産まれました。あなたの子です」
「コノハナサクヤ・・・すまん」
ニニギは泣きながらコノハナサクヤビメの手を取り、三人の赤ん坊を抱いた。
赤ん坊たちはまだ元気な泣き声を上げていた。
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☆木花神社
ニニギの行幸の跡であり、コノハナサクヤビメが火を放って3皇子を出産した産屋の跡「無戸室(うつむろ)の跡」や、産湯を使ったという「霊泉桜川」が残っいます。
☆都萬神社
コノハナサクヤビメは夫のニニギと一緒に祀られることが多いのですが、ここは主祭神としてコノハナサクヤビメを祀ってあります。こちらにも「無戸室の跡」はじめいくつもの伝承地がのこっています。