海神はホオリに向かって言う。
「兄君にこの針をお返しするときは、後ろ手にしてお渡ししてください。その時、オボチ・ススチ・マヂチ・ウルチ、と唱えるのですよ」
「え?オボチ・ススチ・マヂチ・ウルチ・・・ですか?何ですか、それは」
「なに、ちょっとしたまじないですよ」
ホオリは不思議な顔をして針を受け取る。
海神はさらに続けていった。
「日本に戻り、兄君が高台に田を作ったら、ホオリ様は低い地に田をおつくり下さい。逆に兄君が低地に田を作ったら、ホオリ様は高台に田を開くのです」
「すると、どうなるのですか?」
「わたしは海の神です。水のことなら思い通りに操れるのです。3年もたたないうちに兄君の田は米がとれなくなり、貧しくなることでしょう」
ここで海神は二つの玉を取り出して言った。
「これはシオミツタマとシオヒルダマと言います。
兄君がもしいくさを起こし攻めてきたら、このシオミツタマを出しなさい。たちまち潮が満ちて兄君は溺れるでしょう。もし兄君が助けを乞うたら、シオヒルダマで潮を引かせて助けてあげてください。」
そういうと、二つの玉をホオリに授けた。
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☆オボチ・ススチ・マヂチ・ウルチ
漢字をまぜて書くと
「オボ鉤・スス鉤・貧鉤・ウル鉤」という表現になります。
オボ鉤とはぼんやりした針、
スス鉤とは「すさぶ針」の意味で怒り狂う針、
貧鉤は字そのままで貧乏になる針、
ウル鉤は「おろかな針」の意味で役立たずの愚かな針
う~ん、なんとも恐ろしい呪文・・
さらに兄の田を凶作に陥れ、津波に巻き込ませ・・・
もともとの原因を作ったのは弟のほうなのに、そこまでやるか・・・