古事記の話

古事記を小説風に書き直してみました

2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

うさぎが泣いていた

わたしは袋を担いで、異母兄たちのあとをついていった。 しかし、袋は重い・・当然だ。令和の今のようにホテルや旅館が整備されているわけではない。当時の旅と言えば、食糧から寝具まですべて持参した。それらを詰め込んだ袋の重さは相当のものである。 何…

異母兄たちの袋を担ぐ

因幡の国にとても美しいと評判の女神がいた。名をヤガミヒメという。 そしてヤガミヒメが、結婚相手となる男神を探しているという話も出雲まで伝わってきたのだ。この話を聞いたわたしの異母兄たちは、我先にとヤガミヒメのところに求婚に向かう準備を始めた…

オオクニヌシの自伝 プロローグ

わたしの名はオオクニヌシ。はるかな昔、出雲の国で生まれた神である。 最もオオクニヌシというのは、後にわたしが日本の国を統治するようになってからの名である。若いころのわたしはオオナムヂと呼ばれていた。 父の名はアメノフユキヌ。父はスサノオから…

そして、多賀の地へ

わたしが禊をし、三貴神を産んでから数年の時が経った。 わたしは悩んでいた。 悩みの種は末っ子のスサノオである。 アマテラスとツクヨミはそれぞれの世界に赴き、私が指示した通りの世界を治めている。しかしスサノオだけは違ったのだ。 スサノオは何年た…

三貴神が生まれた

わたしは再び浅瀬に戻ってきた。既に夜明は近い。 わたしは禊の仕上げをしようと思ったのだ。 浅瀬にしゃがみ込み、川の水をすくって左の眼を洗った。その時だった・・・ 辺りがパッと明るく輝いた。まばゆいばかりの、それでいてさわやかな光だった。 一瞬…

みそぎ

黄泉の国から帰ってきたわたしは、日向の橘の小戸の阿波木原に来ていた。 わたしは禊(みそぎ)のために、九州のこの地にやってきたのだ。 わたしは黄泉の国に行ってきた。黄泉の国は死者が行く穢れた国である。 その黄泉の国に行った私の体にも穢れがまとわ…

岩で道を塞いだ

黄泉の醜女や雷神の追手を振り払い、黄泉比良坂をのぼって、わたしは現世に戻ってきた。 しかし、ほっとしたのもつかの間だった。 私の眼に、坂を駆け上がってくるイザナミが目に入ったのだ。かつて愛した女神の、その鬼気たる表情、今も忘れられない。 醜女…

現世に戻ってきた

黄泉の醜女に追われ、追いつかれそうになる。 わたしは髪を束ねていたカズラをほどいて投げつけた。カズラは山ぶどうに変わり、それを醜女がもぎ取った食べている間に私は逃げた。 しかし醜女どもはあっという間に食べ終わると、再び私を追ってきた。見る見…

逃げる!

やっと会えたイザナミ、しかしそのおぞましい姿・・・私は思わず松明を落としてしまった。次の瞬間、踵を返すと一目散に逃げだしていた。 すると、背後からイザナミの声が聞こえた・・・確かにイザナミの声だが、優しかった昔のイザナミの声ではない・・・ …

イザナミに会えた!・・が・・

黄泉の国の宮殿の床に、イザナミは横たわっていた。 「ああ、イザナミ!」 わたしはイザナミに駆け寄る。しかし・・・ ・・・松明の光に照らされたイザナミの姿を見たとき・・・ 「うっ・・・!」 わたしは息をのんだ。 確かにそれはイザナミだった。しかし…

黄泉の宮殿に入る

イザナミは戸の奥に下がっていったようだった。再び黄泉の宮殿を不気味な静寂が包んだ。 私は待った。どれくらい待っただろうか・・ 暗い黄泉の世界では、時の流れが全く分からない。 一昼夜か、それとも二昼夜は立っただろうか・・なかなか出てこぬイザナミ…

遅かった・・

わたしはイザナミを迎えに黄泉の国まで来た。そして黄泉の国の宮殿で、扉越しにイザナミと話すことができた。 しかし、様子がおかしい・・・イザナミはなぜか、泣いているようだ・・・いったいどうしたというのだ・・ 「おい!イザナミ、どうした!お前、泣…

黄泉の国のイザナミ

わたしは死んだイザナミを連れ戻すために、死者の行く地である黄泉の国に来ていた。 黄泉の国でイザナミを探し歩くうち、石と土の宮殿を見つけた。辺りは静まり返り、それでいて重苦しく不気味な空気が漂っている。 私は確信した「この中に、イザナミがいる…

イザナミを迎えに行く

わたしは妻イザナミの死の原因となった、我が子火の神カグツチを斬った。 しかし、私の心は晴れなかった・・・晴れるわけもなかった。 残ったのは空虚な虚しさだけだった・・・ そしてわたしは決心した。 わたしはイザナミなしに生きていくことはできない・…

イザナミを葬り、カグツチを斬る

イザナミは死んだ・・・ 私は泣いた・・・どれぐらい泣いただろうか・・・ その涙からも神が生まれてきた。ナキサワメの神だ。しかし、その時はそこまで気が回らなかった・・目の前の、イザナミの死の悲しみで、心がいっぱいだったのだ。 わたしはイザナミの…