黄泉の醜女に追われ、追いつかれそうになる。
わたしは髪を束ねていたカズラをほどいて投げつけた。カズラは山ぶどうに変わり、それを醜女がもぎ取った食べている間に私は逃げた。
しかし醜女どもはあっという間に食べ終わると、再び私を追ってきた。見る見るうちに私に追いつかれそうになる。
「えい!これでどうだ!」
わたしは髪に差していた竹櫛を取ると、それをバラバラにして追ってくる醜女に投げつけた。するとそれも地に根を張り、たちまちのうちに筍(たけのこ)に変わった。
醜女どもは今度はその筍を取っては、皮をむいてむしゃむしゃ食っている。
「よし!この間に・・・ん?・・なんだ」
イザナミの宮殿の方からまた別の追手が来ているのが目に入ったのだ!あれはイザナミの体に取りついていた雷神だ!
もはや食べ物で時間稼ぎするのは通用しないだろう。
わたしは剣を抜くと後ろ手に振り、襲ってくる雷神を追い払いながら先に逃げた。
本当に危なかった。
あの時わずかでも油断していたらたちまち雷神の餌食になっていただろう・・・
私はやっとのことで、現世と黄泉の国との境、黄泉津比良坂(よもつひらさか)まで逃げてきた。
わたしは坂を登り切り、現世に足を踏み入れた。
しかしそれでもなお雷神は追ってくる!このままでは危ない!
その時、私の眼に、地上の山桃の木が目に入った。山桃はたわわに実をつけている。
私はその山桃を三個ちぎると、雷神に向かって投げつけた。
すると、そのまま雷神は背を向け、黄泉の国に退散していった。
助かった・・・
わたしは桃の木のほうに振り返った。
「ああ、桃の樹よ・・そなたがわたしを助けてくれたんだよ・・・
もしこの日本の民が苦しみ悩むときは、わたしの時と同じように助けてくれよ・・・」
≪山桃の木≫
そしてわたしは山桃の木をオホカムズミと名付けた。
山桃の木は風にそよぎ、木漏れ日はわたしを照らしていた。
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☆桃
支那の国では桃は古くから邪気を払う、不老長寿の果物とされてきました。これが日本にも伝わり、桃は神聖な果物とされてきました。
桃太郎の話はよく知られています。また旧暦3月3日の桃の花が咲くころは「桃の節句」として女児の健やかな成長を願う日でありました。
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