山幸彦の自伝 5
針を持っていかれた・・・わたしは青くなった。
兄ホデリが大事にしていた針をなくしてしまったのだ・・・
・・・あんなに頼み込んで、やっと頼み込んで貸してもらった釣り針なのに・・・兄上はどんなにか怒るだろうな・・・
わたしは重い足取りで、とぼとぼと高千穂宮に戻っていった。
高千穂宮に戻ると、兄ホデリが先に帰っていた。服は泥で汚れて、体中擦り傷だらけだ。ホデリの山での狩りもうまくいかなかったのだろう。その顔、明らかに不機嫌で怒っている。
わたしの姿を見ると、ホデリのほうから口を開いた。
「ホオリ、どうだったか?小魚の一匹でも釣れたか」
「いいえ、兄上・・・何一つ・・・釣れませんでした・・・」
「ふん、そうだろう。わたしも何の獲物も取れず、泥で滑って身体を木や岩にぶつけて散々だった。
山幸も自分の道具、海幸も自分の道具を使ってこそ成果が上がるのだ。さあ、お前の道具を返すぞ。わたしの釣り道具を返してくれ」
「それが・・・兄上・・・」
「ん?どうしたのだ・・・」
「・・・それが・・・あの・・・」
「どうした、ホオリ・・・ま・・・まさか、お前、わたしの釣り針を・・・」
「・・・はい・・・なくしてしまいました・・・」
「な・・・なに・・・なんだと!!」
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