兄であるオオウスを、いとも簡単に、無残に殺してしまったオウス・・
まだ前髪をひたいで結っている、稚児姿の少年である。天皇がそら恐ろしいものを感じるのは当然だった。
天皇はオウスに向かって言った。
「西のほうにクマソタケルがいる。奴が率いる熊襲は朝廷に従わず勝手なことばかりやってる者どもである。お前はクマソタケルを征伐し朝廷の命に服させよ」
数日後、オウスは伊勢の国に住むヤマトヒメのもとに来ていた。先帝・垂仁天皇の娘で、父である天皇の同母妹であり、オウスから見れば叔母に当たる。ヤマトヒメはこの伊勢の地で皇室の祖先神アマテラス大御神の祭祀を執り行っていた。
「叔母上、ご無沙汰しております。」
「あら、オウス!ほんとに久しぶりね、元気だった?しばらく見ないうちに大きくなったわね」
神に仕える役目を担うヤマトヒメは独身を貫かねばならず、夫や子を持つことは許されていなかった。それだけに甥のオウスを特にかわいがっていた。
オウスは用件を切り出す。
「叔母上、実はわたくし、父上から西国の熊襲征伐を命じられまして・・」
「え・・それは大変ね・・陛下もまた、まだみずらも結っていない子供に、むちゃなことをさせるわね・・」
「つきまして、叔母上のお着物をお借りしたいのですが・・・」
「え?私の着物?・・いいけど・・なんに使うの?」
「ええ・・・実は、ちょっと計略がありまして・・・」
「・・そう、まあ、いいわ。好きなものを選んで持っていきなさい」
「ありがとうございます」
こうしてオウスはヤマトヒメの着物を借りると、剣を袋に入れて西国に旅立っていった。
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☆ヤマトヒメ
垂仁天皇の皇女で、先代崇神天皇の皇女トヨスキイリビメからアマテラスを祀る役目を受け継ぎました。伊勢の地にアマテラスを祀り、伊勢神宮を創建したとされます。
「神に仕えた独身の巫女」という立場から、邪馬台国の女王卑弥呼と同一人物だとする説もあります。
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