オオウスは宮中に全く参上することは無くなった。
天皇はオオウスの弟であるオウスに言った。オウスは年の頃数え十五、まだひたいで髪を結っている、稚児姿の少年である。
「お前の兄のオオウスが朝夕の食膳の席にさえ出てこないのはどういうことであるか。オオウスがやったことはともかく、朝夕の食膳は神に供える大事な儀式だ。それに出てこないというのでは天の御子とは言えない。
オウス、お前は兄のところに行き、ねぎ教え諭しなさい(丁寧に教え諭しなさい)」
「ハイ、父上!」
オウスは元気良い返事を返した。
それから5日の時が経った。しかしまだ、オオウスは宮中には参上しない。
再び天皇はオウスに言った。
「オウス、あれから5日たつぞ。お前はまだ、兄に教え諭していないのか」
「父上、私は先日のお言葉通り、きちんとねぎましたよ」
「なに?それはどういうことだ?」
笑顔で元気よく話すオウスを目の前にして、天皇は心になにか、冷たく突き刺さるようなものを感じていた。
「はい、朝、兄上が便所に入るところを待ち伏せて、捕らえて手足を引きちぎって、薦(こも)に包んで投げ捨てました」
「・・・」
話の内容と裏腹に明るく話すオウス・・・
オオウスは天皇を騙したとはいえ、天皇に刃を向けたわけでも謀反を起こしたわけでもない。命まで取る必要はなかったのに、こんなむごたらしく殺してしまうとは・・
天皇が恐ろしく感じたのも無理はなかった。
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☆ねぎ・・・
古代語で「ねぐ」というのは、摘む・もぎ取る、という意味があります。
古事記では父の天皇は「ねぎ教え諭せ」と言っています。この「ねぎ」は現代で言う「ねぎらう」と語源は同じで、「丁寧に教え諭しなさい」といった意味です。
ところがオウスは「手足を引きちぎれ(=処刑せよ)」という意味にとりました。
・・・どーやったらそんな間違いが起こるんだ・・・
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