ワカヒコは出雲の国に降り立ち、歩いていた。
「さあ、どのようにして、オオクニヌシと国譲りの交渉をしたものか・・・」
なにしろ日本の国はオオクニヌシの尽力で栄え、発展しているのだ。しかもオオクニヌシは出雲を救ったスサノオの直系である。
いくら日の神の仰せと言えど、簡単に統治権を譲る訳にもいかないだろう。
「・・・正面からオオクニヌシと交渉するか、それとも周りの重臣に賄賂でも贈ってかためていくか・・・」
ワカヒコは考えながら、峠道をオオクニヌシの宮殿に向かって歩いていた。その時だった。
「助けて・・・誰か・・・」
か細い声が聞こえた。ワカヒコは声のするほうに行って見た。
路は小高い崖の上に造られていた。そしてがけ下に若い女性が倒れていたのである。
「大丈夫ですか!」
ワカヒコは慌ててがけ下に降りていった。
「大丈夫ですか!どうされました!」
女性はワカヒコの姿を見ると、助かったという思いから安堵の表情を浮かべていた。
「すみません、足を踏み外して道から落ちてしまったんです。足首を痛めて、動けなくなってしまって・・・」
どうやら足首をねんざしているらしい。
「もう大丈夫ですよ、家までお送りいたしましょう。どちらのほうですか?」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、オオクニヌシの屋敷まで送ってもらえますか」
「え?オオクニヌシさまの?」
ワカヒコは頭がぶっ飛ぶかと思うぐらいびっくりした。まさか、こんなところでオオクニヌシの娘と出会うとは・・・
でも、これはチャンス!これをうまく利用すれば、交渉はうまく運ぶかもしれない!
そんな下心を持ちながら、しかしそれは表には出さずシタテルヒメをいたわりながら、彼女を背負うとオオクニヌシの屋敷に向かって言った。
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ワカヒコとシタテルヒメの出会いの話、ぼくの創作です。古事記にはこんな話、載っていません。
シタテルヒメの母は宗像三女神の一人タギリヒメで、同母の兄にアジスキタカヒコネがいます。このアジスキタカヒコネはワカヒコと顔かたちそっくりらしいのですが、その話はあとから出てきます。