さて、わたしは越の国を平定し、出雲に戻ってきた。
ところで、わたしの妻スセリビメは、とても嫉妬深い女神であった。
わたしにとってヤガミヒメを追い出されたのは痛い出来事だった。しかし、越の国のヌナカワヒメまで嫁にしたことが、またスセリヒメの怒りを呼び起こしてしまった・・
わたしは国の支配のために各地の豪族を次々と嫁にしていったのだが・・それが女のスセリヒメにとっては気に入らないらしい。
・・いや、その気持ちは・・・わからないわけでも・・・ないのだが・・・
まあ・・・その・・・
男のさがと言うのも否定はしないが・・・
それはとにかく・・スセリヒメは毎日のようにわたしに説教し、嫌味を言う。
私はうんざりして、しばらくほとぼりが冷めるまで、大和の国に身を隠すことにした。
わたしは誰にも知られぬよう旅支度をした。馬の鞍に手をかけ、鐙に片足を入れた、・・・その時だった。
そこに、現れたのだ・・・スセリヒメが!
スセリヒメはわたしが逃げ出すことを察知していたのか!・・・
また怒られるのかと私は身構える。しかし、どこか様子が違う・・・スセリヒメは悲しそうな顔をしている・・・
その姿にわたしは鐙に片足を入れたまま言った
「わたしが旅立って行ったら、お前は・・泣いてくれるのか・・朝の雨のように、霧のように・・・」
スセリヒメは言う
「オオクニヌシさま・・あなたは日本の支配者、日本中の島や岬の隅々まで、妻がいらっしゃるんでしょうね・・・しかし、わたしは女。あなたの他には夫はいません。
わたしの淡雪のような白い胸に抱かれて、白い腕を枕にして、手と手を合わせてゆっくりお休みなさいませんか・・・美味しいお酒でもお召しになって・・・」
スセリヒメは一杯の盃を差し出した
その言葉を聞いて、私ははっとした・・・スセリヒメと最初にスサノオさまの屋敷の門前で出会ったこと、スセリヒメのおかげでスサノオさまの試練を乗り切ったこと、スセリヒメと二人で根の国から逃げ出してきたこと・・・すべての記憶がわたしの脳裏によみがえったのだ。
・・・そう、今のわたし・・・オオクニヌシ(大国主)として、日本の支配者としての今があるのはすべてスセリヒメのおかげなのだ・・・
わたしは鐙にかけていた片足を降ろし、旅の衣装を脱いだ。
スセリヒメが差し出した酒を飲み、そっとスセリヒメの肩を抱いた。スセリヒメも静かに私の肩に手を回した。
わたしたちは互いの肩に手を回したまま、屋敷に入っていった。
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☆出雲大社
今、オオクニヌシは縁結びの神様として出雲大社に祀られています。その出雲大社の境内の一角に「縁むすびの碑」というのが建立されています。
しかし縁結びの神様ゆーても、ヤガミヒメは実家に逃げ帰り、浮気性の夫に振り回されるスセリヒメ・・・
日本の神様なんてこんなもんなんです・・・
案内板には古事記の一文が記されています。
「即ち宇岐由比為てうながりて今に至るまで鎮まり坐す
すなわち夫婦の契りの盃を交わされうなじに手を掛け合い寄り添いあわれて今日に至るまでお鎮まりです」
しかし、この案内板には結末しか書いてないから、これだけみても途中何があったのかさっぱりわからないのですが・・・
「オオクニヌシと因幡の姫様はの白兎の導きで結ばれ幸せに暮らしました」と思い込まれている方も多いのではないのでしょうか。
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