その日の食事が終わると、スサノオは自らオオアナムヂを寝室に案内した。
「ここが今夜、お前が泊まる部屋だ。中に入れ」
オオアナムヂは中に入った。するとスサノオは外から閂をかけてしまった。中からはあけられない。
「ゆっくり休むが良いぞ」
そういうと、スサノオは去っていった。
部屋の中は薄暗かった。だんだん目が慣れてきたオオアナムヂは、はっと息をのんだ。
部屋の床中、足の踏み場もないほど何かがはい回っている。それは・・・蛇だった。大小何十匹もの蛇がはい回っている。中には毒蛇も混じっている。ちょっと油断するとすぐにかまれてしまうだろう。
「う・・・これは・・・スサノオさまもきついな・・・」
オオアナムヂは途方に暮れた。一晩中、蛇をよけながら過ごさなければならないのだろうか。
その時だった
「オオアナムヂさま・・・」
か細い声が聞こえた。スセリヒメの声だった。
オオアナムヂが声がしたほうによると、スセリヒメは明かり取りの小窓からそっと1枚のひれを差し入れた。
「オオアナムヂ様、これは蛇除けのひれです。これを3回振ってください。
オオアナムヂはひれを受け取ると、言われた通りに3回振った。すると蛇はオオアナムヂのそばから離れて近寄らなくなった。
オオアナムヂは体を横たえて休むことができたのだった。
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☆ひれ
ひれは漢字で「領巾」「肩巾」と書き、古代に女性が首から肩にかけてたらした装飾用の布を言います。
↑「いらすとや」からひろってきたアマテラスのイラスト。このピンクの布が「ひれ」ですね。
この「ひれ」は単なる装身具ではなく、これを振ることにより害虫や毒蛇を追い払う呪力を持つと考えられてきました。