ここは宮殿の一室。
そこには、スサノオが背を向けて座っていた。
スセリヒメは部屋に入ると、スサノオに背後から言った。
「お父様、お客様です」
スサノオは背を向けたまま言った。
「客だと?・・・どんな奴だ?」
スセリヒメが答える。
「はい、とても立派な神様です」
それを聞いて、スサノオはゆっくり振り返った。そこにはオオアナムヂの姿があった。
スサノオとオオアナムヂの目が合った。スサノオは、オオアナムヂに魅かれるようなものを感じた。
スサノオはオオアナムヂを自分の子孫だと直感すると同時に、オオアナムヂが持つとてつもない霊力を感じ取ったのである。
「おう、よく来たな。ゆっくり休んでいくが良い」
そういうと、スサノオはスセリヒメにごちそうを作ってもてなすように命じた。
オオアナムヂは、スサノオの柔らかい態度に安心した。何しろ出雲の英雄とはいえ、とても乱暴者で鳴らしたスサノオである。その数々の逸話を聞いていたがゆえに、どんな待遇を受けるだろうかと心配していたのである。
しかし、その安心感は試練の始まりだった。
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☆アシハラシコオ
古事記では、スサノオはオオアナムヂを見て最初に開口一番「こいつはアシハラシコオ(葦原色許男命)だ」と言ったとされています。
「アシハラ」は葦が豊かに茂るところの意味で、すなわち瑞穂の国、日本のことです。
「シコオ」は漢字で書くと「醜男」ですが、ここでは「醜い男」ではなく「強い男」の意味です。
すなわちオオアナムヂと初対面してスサノオは「こいつは日本の将来を背負う男だ」と見抜いたのですね。