翌朝。
スサノオは愉快そうだった。
「はっはっは、オオアナムヂの野郎、どうしたかな。まあ、あのオオアナムヂのことだから、死ぬことは無いだろうが・・・それでも蛇にまとわりつかれて、一睡もできんかったろうな。
おい、スセリ!オオアナムヂをここに連れてきなさい」
スセリヒメに連れられて現れたオオアナムヂは、すっきりした顔でスサノオの前に出た。
「スサノオさま、おはようございます。よく眠れました。旅の疲れもすっかりとれました」
その明るい表情は、皮肉で言ってるようには見えない。嘘偽りは無いようだった。
それを聞いて、スサノオはびっくりした。しかし、それは顔は出さずに、ひとこと「それは良かったな」といっただけだった。
次の晩、スサノオはまた自らオオアナムヂを宮殿の一室に連れて行くと
「今夜はここに寝ろ」と言った。
オオアナムヂは何の疑いもなく中に入ると、スサノオは外から閂をかけた。
そこも部屋の中は薄暗かった。しかしぶわーんと不気味な音が響いている。だんだん目が慣れてきたオオアナムヂは・・・
オオアナムヂの見たものは、床を這いまわる何百匹ものムカデと、空間を飛び回る何百匹の蜂だった。そこはムカデと蜂の部屋だった。
オオアナムヂは凍り付いた。全ての思考が停止したかのようだった。
その時、昨日と同じくスセリヒメのか細い声が聞こえた。
スセリヒメは明かり取りの小窓からそっと1枚のひれを差し入れた。
「オオアナムヂ様、これはムカデと蜂除けのひれです。これを3回振ってください。」
オオナムチはひれを受け取ると、言われた通りに3回振った。ムカデと蜂はオオナムチのもとを離れ、近寄らなくなった。
オオナムチはその夜も体を横たえて休むことができた。
翌朝、スセリヒメに連れられてスサノオのもとに現れた。今度はスサノオから声をかけた。
「おう、オオアナムヂ!気分はどうだ?よく眠れたか?」
「スサノオさま、おはようございます。おかげさまで、よく眠れました」
オオアナムヂの表情には一点の曇りもない、純粋な目でスサノオを見ていた。
スサノオはオオアナムヂの顔を見つめた。
(うーん、オオアナムヂの奴め・・・なかなかやるな・・・)
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