ヤマトタケルの自伝 30
伊吹山で冷たい雨と雹にたたきつけられ、激しい風にあおられた・・・体の自由がまるできかない・・・
それでもわたしは天候の急変にあらがうように、山を登っていった・・・しかしますます雨と雹は激しい風にあおられ、わたしにたたきつける・・・
・・いくらも時間はたたないうちに、わたしの体力は消耗していった・・・
眼はかすみ、脚は震え、身体は痙攣してきた・・・これはいけない・・・
・・・ここに至って、わたしは山を下りる決心をした・・・
・・・震える足で、一歩一歩、ゆっくりとした足取りで山を下りていく・・・
ああ、降りるのに、どれくらい時間がかかるのだろうか・・・高熱が出て、わたしの意識も朦朧としてきた・・・
朦朧とした脳裏に、さっきであった牛のように巨大な猪が浮かんできた・・・わたしは鼻で笑って、どうせ神の遣いだろうと軽くあしらったが・・・
さてはあれは、神の遣いなどではなく、伊吹山の神そのものではなかったのだろうか・・・わたしの軽くあしらった態度が、神の怒りに触れてしまったのか・・・
・・・だんだん、どこを歩いているのかも分からなくなってきた・・・
・・・それでもやっとのことで山を下りることができた・・・そしてかすむ意識で、ふらつく足でよろめきながら進んでいくと・・・
わたしのかすむ目に入ったのは・・・
こんこんと清水が湧き出す泉だった・・・
わたしはよろける足でその泉に向かった・・そして這いつくばりながら泉から流れ出す川に入り・・
・・その冷たい水に高熱におかされた身体を浸して冷やし、こんこんと湧き出す水をすくっては何杯も飲んだ・・・
そしてやっと正気が戻って来た・・・たすかった・・・
そこにわたしを呼ぶ声が聞こえてきた
「ヤマトタケルさま!」
「ご無事でしたか!」
それは、わたしを心配して探しに来た、従者たちだった。わたしはこの泉で、従者たちと再会したのだった。
≪居覚の清水に立つヤマトタケル像≫
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☆居覚の清水
この時、ヤマトタケルが息を吹き返した泉が「居覚の清水」(いさめのしみず)であり、滋賀県米原市醒井に伝承地が残っています。
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