ヤマトタケルの自伝 20
上総の国を発ったわたしは、陸奥(みちのく)を目指して進んでいた。
陸奥国に入ると、わたしは海上を進んでいくことにした。この先は全く未知の領域である。下手に陸路を進んでいくと、どのような敵に襲われるかわからない。
そこで危険の少ない海路を進んでいくことにしたのである。
わたしは乗る舟に、大きな鏡を掲げた。鏡は天岩戸の神話にもあるように、神の象徴なのである。
舳先に鏡を掲げた船は、風に乗って順調に進んでいく。そして船は蝦夷(えみし)の支配する地に履いた。蝦夷はいまだ朝廷に服属していない。
すると、蝦夷はわたしが攻めてくるのを察していたのだろうか、蝦夷たちは水門に兵を繰り出しておりゆく手をふさいだのである。
敵兵はざっとみて数百・・・わたしの元にはわずかな従者がいるだけだ。普通に考えて勝ち目はない。しかし私にはその時、妙な自信があった・・・自分はこんな蝦夷どもに負けるわけがないと・・・
「ヤマトタケルさま、この数では我々に勝ち目はありません。いったん退却しましょう」
従者たちは進言する。しかしそんな従者たちを制して、わたしは舟を進ませた。
そして蝦夷どもの軍勢に近づいていった。
その時!
雲に隠れていた陽が、顔を出した。鏡に反射した光が蝦夷どもをにわかにまばゆく照らしたのである!
あたかもアマテラス大御神が、その威光を示すように!
果たして鏡に反射するまばゆい光を見た敵兵は、戦わずし弓矢を捨て、降伏の白旗を上げたのである!
わたしは神の力が結集した鏡の威力を改めて感じたものだった。
わたしは蝦夷の地に上陸した。
そこに蝦夷の首長が現れた。彼は武器は何も持たずに、丸腰でわたしに接見したのだった。
彼はわたしを拝み見ると
「改めてお顔を拝するに、誠に神々しく感じます。あなた様は神でしょうか?」
と言った。
わたしは
「我は現人神(あらびとがみ=天皇)の子である」
と答えた。
わたしに恭順の意を示した蝦夷に対しては、もちろん何ら罪を問うことはなかった。朝廷の命に服することを条件にこれまで通りの領地支配を許したのである。
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☆蝦夷
この話は日本書紀を参考に構成しました。
古事記ではヤマトタケルの熊襲征伐については詳しく記述してあるのに、蝦夷征伐については「荒々しい蝦夷をことごとく服させ、山河の荒々しい神を平定した」と簡単に記してあるだけです。
蝦夷(えみし)とは関東以北に居住していた民族の総称です。時代とともに大和朝廷が勢力を伸ばし、中央政権の支配下に入っていきました。
蝦夷を討伐するために任命された武官が「征夷大将軍」です。古代においてはその名の通り蝦夷征伐の指揮官でしたが、源頼朝が任じられて以降は武家政権の棟梁をさすようになりました。
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